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【落とし穴】人材開発支援助成金の併給は、申請の順番で結果が変わります

人材開発支援助成金と他の助成金を併用できるかは「できる/できない」の2択ではありません。厚生労働省の共通要領は○-×※の4種類で答えを出していて、×と※には「先に支給されたほうが残る」という順番のルールが入っています。共通要領0304と支給要領0906を原文から整理し、申請前に決める3つの問いにまとめました。

佐野 泰規佐野 泰規株式会社AIエージェント 代表取締役約9分で読めます
棚に並べられた青いファイルバインダー
Pexels / Zulfugar Karimov

この記事でわかること

  • 判定は制度名ではなく「何が重なっているか」。共通要領0304は「同一の行為」(イ)と「同一の経費又は賃金の支出」(ロ)の2軸で禁止していて、助成金の名前では切っていない
  • 答えは4種類。別紙1の記号解説表が ○(併給可能)/-(同時に要件を満たさない)/×(どちらか一方のみ)/※(一部だけ併給できない)を定義している
  • ×と※には順番がある。×の定義は「一方が既に支給済であった場合、もう一方の支給は不可」。別紙3も「先に支給された側が残り、後から申請した側が止まる」書き方で統一されている
  • 止まり方は3通り。人材開発支援助成金側の支給要領0906は、賃金助成だけ止まる場合(イ)・全部止まる場合(ロ)・経費助成だけ止まる場合(ハ)を分けている
  • 補助金は助成金と別ルール。0304ニは、趣旨が明らかに異なるものや3条件をすべて満たすものは「併給調整を行わない」と書いている

助成金を2つ使いたいとき、多くの人が「併用できますか」と聞きます。私も最初はその聞き方をしていました。

要領を読むと、その問いには答えが返ってきません。用意されている答えは4種類で、うち2つには「どちらを先に出したか」で結果が変わるという条件が付いています。

判定しているのは制度の名前ではなく、重なっている中身です。同じ訓練か、同じ経費か、同じ賃金か。ここから整理します。

人材開発支援助成金の併給を決めているのは共通要領0304

コースごとの支給要領には、併給の話がほとんど書かれていません。事業展開等リスキリング支援コースの支給要領は「『第1 共通要領』の 0304 の規定によるほか」と書いて、本体を別の文書に投げています。共通要領を開かないと判定できません。

イ 同一の事業主等による同一の行為を根拠として、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない。

ロ 同一の事業主等による同一の経費又は賃金の支出について、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない。

——雇用関係助成金支給要領 第1 共通要領 0304 併給調整(令和8年4月8日版・2026年9月3日閲覧)

助成金の名前は一度も出てきません。 見ているのは「行為」(イ)と「経費または賃金の支出」(ロ)だけです。「AとBは併用できますか」が答えようのない形なのはこのためで、答えられる形に直すと「この訓練の、この経費/この賃金が、二重に助成されますか」になります。

答えは4種類あって、2つには順番が入っている

具体的な組み合わせは、共通要領の別紙2「雇用関係助成金併給調整表」が記号で示しています。その記号の意味を定めているのが別紙1です。

○ 双方の支給要件を満たせば併給可能。 - 同時に双方の支給要件を満たすことはないため、併給調整の問題は生じない。 × 双方の支給要件を満たした場合であっても、どちらか一方しか支給できない。(一方が既に支給済であった場合、もう一方の支給は不可。) ※ 双方の支給要件を満たした場合であっても、一部併給できない部分がある。別紙3を参照。

——同要領 別紙1 雇用関係助成金併給調整記号解説表

実務で効くのは2点です。

「-」は「できない」ではありません。 同時に要件を満たす場面が無いという意味なので、諦める理由になりません。「×」と同じに読むと、使える制度を自分で外すことになります。

「×」の括弧書きが順番のルールです。「一方が既に支給済であった場合、もう一方の支給は不可」。先に支給された側が残り、後から出した側が落ちます。 どちらの金額が大きいかを比べるのは、申請したあとでは間に合いません。

「※」の中身は、別紙3に文章で書いてある

※が付いた組み合わせは、別紙3に個別の解説があります。書き方は次のように統一されています。

出向している労働者が行った職業訓練について、事業展開等リスキリング支援コースの賃金助成部分が支給された場合、同一の賃金に対しては、産業雇用安定助成金(災害特例人材確保支援コース)を支給しない。労働者が行った出向に対して、産業雇用安定助成金(災害特例人材確保支援コース)が支給された場合、当該支給対象期間中に当該労働者が行った職業訓練については、事業展開等リスキリング支援コースの賃金助成部分を支給しない。

——同要領 別紙3

同じ内容が両方向から2回書かれているのが読みどころです。前半は「リスキリングが先なら産業雇用安定助成金が止まる」、後半は「産業雇用安定助成金が先ならリスキリングの賃金助成が止まる」。どちらが先かだけが違い、止まる側が入れ替わります。

しかも止まっているのは賃金助成部分だけで、経費助成には触れていません。※が「一部併給できない」と定義されているのは、この構造のためです。

止まり方は3通りに分かれている

人材開発支援助成金の側にも上乗せがあり、ここが「全部止まるのか、一部だけか」を分けています。

イ 本助成金の支給を受けることができる事業主が、同一の事由により、賃金助成の性質を有する雇入れに係る助成金等の支給を受けた場合には、当該支給事由によっては、本助成金のうち賃金助成は行わないものとする。

ロ 本助成金の支給を受けることができる事業主が、同一の事由により、賃金助成及び経費助成の性質を有する緊急雇用創出事業等の助成金等の支給を受けた場合には、当該支給事由によっては、本助成金を支給しないものとする。

ハ 本助成金の支給を受けることができる事業主が、都道府県から「認定訓練助成事業費補助金」を受けている場合には、本助成金の経費助成は行わないものとする。

——人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)支給要領 0906(令和8年8月3日版・2026年9月3日閲覧)

表にするとこうなります。

相手止まるもの残るもの根拠
賃金助成の性質を持つ雇入れ系の助成金賃金助成経費助成は残る0906イ
緊急雇用創出事業等の助成金全部なし0906ロ
都道府県の認定訓練助成事業費補助金経費助成賃金助成は残る0906ハ

イとハで止まる側が逆です。「併給調整に当たる=ゼロ」と決めつけると、残るはずの助成まで自分で降ろすことになります。

補助金は助成金と別ルールで、原則は「調整しない」

見落とされやすいのが、助成金以外の補助金の扱いです。0304ニは、条件を満たせば併給調整を行わないと明記しています。

事業主等が助成金以外の補助金等を受給している場合には、当該補助金等と支給申請する助成金の支給する趣旨や目的、助成内容等が明らかに異なっているものや、以下の(イ)から(ハ)までのいずれにも該当するものは併給調整を行わない。

(イ) 助成金と財源が異なるものであること (ロ) 補助金等が助成金との調整を予定しておらず、併給を認めていること (ハ) 助成金の助成対象について重複して助成を受けることが明確であって、当該助成を合算した額が自ら負担した経費又は賃金の額を超えることが見込まれるものでないこと

——同要領 0304ニ

(ハ) が実質的な線引きです。「もらった合計が、自分が払った額を超えないこと」。 助成金と補助金が別の財布から出ていることは補助金と助成金の違いで整理したとおりで、ここでもそれが前提になっています。

ただし判断は労働局が個別に行います。要領に条件が書いてあることと、自分の申請が通ることは別です。 補助金を併用する予定があるなら、計画届の前に組み合わせを伝えて確認してください。

同じ助成金の中にも重複の制限がある

他制度との併給とは別に、人材開発支援助成金の内部にも制限があります。支給要領0510が定めているもののうち、実務でぶつかりやすいのは次の2つです。

  • 同じ内容の定額制サービスの契約期間が一部でも重なっていると、重なった部分は原則として支給対象にならない(0510ホ)
  • 受講回数は同一労働者につき一の年度で3回まで。うちeラーニングは、令和8年8月3日以降に提出した計画届に基づくものは1回まで(0510ヘ)

定額制サービスの受講回数は、人への投資促進コースと事業展開等リスキリング支援コースを合わせて年度3回までです。片方で枠を使うと、もう片方で使える回数が減ります。併給調整ではありませんが、「二重取りをさせない」という同じ思想でつながっています。

申請の前に決める3つの問い

以上を、計画届を出す前に答えておく形にまとめます。

  1. 何が重なっているのか。 同じ訓練という行為か(0304イ)、同じ経費か、同じ賃金か(0304ロ)。重なっていないなら、そもそも調整の話になりません。
  2. 止まるのはどの部分か。 賃金助成だけか、経費助成だけか、全部か(0906イ・ロ・ハ)。ここを確かめずに片方を諦めない。
  3. どちらを先に出すか。 ×と※は先に支給された側が残ります。金額を比べるのは申請前にしてください。

この3つを持って行くと、労働局への質問が「併用できますか」から「この組み合わせのこの部分はどうなりますか」に変わります。答えが返ってくる形になります。

なお支給申請の期限は訓練終了日の翌日から2か月で、併給を検討していても延びません。順番を決める作業は計画届の段階で終わらせるのが安全です。

制度を組み合わせる前に、研修の中身を先に決めておく

併給の判定は、訓練の中身が決まっていないと始まりません。何を、誰に、何時間やるのかが決まって初めて、どの経費とどの賃金が重なるかを見られるからです。制度の組み合わせより先に、研修の設計があります。

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出典

組み合わせごとの記号は別紙2で必ず現物を確認してください。この記事は要領の読み方を整理したもので、個別の申請の可否を保証するものではありません。申請前に管轄の労働局へ確認をお願いします。

よくある質問

人材開発支援助成金は他の助成金と併用できますか?
組み合わせによります。雇用関係助成金支給要領の別紙1「雇用関係助成金併給調整記号解説表」は、○(双方の支給要件を満たせば併給可能)、-(同時に双方の支給要件を満たすことはないため併給調整の問題は生じない)、×(どちらか一方しか支給できない)、※(一部併給できない部分がある)の4種類で定めています。組み合わせごとの記号は別紙2の併給調整表で確認してください。
併給できるかは何で決まりますか?
制度の名前ではなく、重なっている中身で決まります。共通要領0304は「同一の事業主等による同一の行為を根拠として、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない」(イ)、「同一の事業主等による同一の経費又は賃金の支出について、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない」(ロ)と定めています。同じ訓練・同じ経費・同じ賃金が二重に助成されるかどうかが判定の軸です。
申請する順番で結果が変わりますか?
変わる場合があります。別紙1の×の定義は「双方の支給要件を満たした場合であっても、どちらか一方しか支給できない。(一方が既に支給済であった場合、もう一方の支給は不可。)」です。別紙3の個別解説も、先に支給された側が残り、後から申請した側の該当部分を支給しないという書き方になっています。どちらを先に出すかは申請前に決めてください。
併給調整に当たると全額もらえなくなりますか?
止まる範囲は場合によって違います。人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)の支給要領0906は、賃金助成の性質を有する雇入れに係る助成金と同一事由の場合は賃金助成のみ行わない(イ)、緊急雇用創出事業等の助成金と同一事由の場合は本助成金を支給しない(ロ)、都道府県の認定訓練助成事業費補助金を受けている場合は経費助成を行わない(ハ)と分けています。
補助金と助成金は併用できますか?
助成金どうしとは別のルールです。共通要領0304ニは、補助金等と助成金の趣旨や目的、助成内容等が明らかに異なっているものや、(イ)財源が異なる (ロ)補助金等が助成金との調整を予定しておらず併給を認めている (ハ)重複して助成を受ける額の合算が自ら負担した経費または賃金を超えることが見込まれない、のいずれにも該当するものは「併給調整を行わない」としています。個別の可否は申請前に労働局へ確認してください。

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