【製造業】技能伝承、法律が「作業手順の定め方に2時間」と決めていました
技能伝承が進まない製造業で、勉強会を新しく作る前に見ておきたい枠があります。労働安全衛生法第60条の職長教育は、対象業種の事業場では義務。労働安全衛生規則第40条第2項が科目と最低時間を表で定めていて、そこに「作業手順の定め方」が2時間で入っています。条文から、暗黙知を形式知に落とす手順とAIの使いどころを整理しました。

この記事でわかること
- 労働安全衛生法第60条は、政令で定める業種の事業場で新たに職長になった人への安全衛生教育を義務づけている。施行令第19条の対象業種に製造業が入っている(たばこ・繊維工業の一部・衣服・紙加工品は除く)
- 労働安全衛生規則第40条第2項が科目と最低時間を表で定めており、合計は12時間。その先頭が「作業手順の定め方」(労働者の適正な配置の方法とあわせて2時間以上)
- 同条第3項は「十分な知識及び技能を有していると認められる者」についてその事項の教育を省略できるとしている。全員に同じ内容をやらなくてよいという根拠がここにある
- だから技能伝承は、新しい勉強会を作る話ではなく「法定の枠に何を載せるか」から始められる。AIに渡せるのは手順の下書きで、作業方法の決定と配置は渡せない
技能伝承が進まない、という話になると、たいてい「勉強会を作ろう」から始まります。
ただ、対象業種の製造業には、法律が決めた枠がすでにあります。 しかも科目と最低時間が表で決まっていて、その先頭が「作業手順の定め方」です。
技能伝承が進まない製造業で、先に見るのは法定の職長教育
根拠は労働安全衛生法の第60条です。
第六十条 事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなつた職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。 一 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。 二 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること。 三 前二号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な事項で、厚生労働省令で定めるもの
——労働安全衛生法 第60条
「行なわなければならない」なので義務です。対象業種は施行令が名指ししています。
(職長等の教育を行うべき業種) 第十九条 法第六十条の政令で定める業種は、次のとおりとする。 一 建設業 二 製造業。ただし、次に掲げるものを除く。イ たばこ製造業 ロ 繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く。) ハ 衣服その他の繊維製品製造業 ニ 紙加工品製造業(セロファン製造業を除く。) 三 電気業 四 ガス業 五 自動車整備業 六 機械修理業
——労働安全衛生法施行令 第19条
製造業は原則入っています。除かれるのは4つで、しかも括弧書きで戻される部分(紡績業・染色整理業・セロファン製造業)があります。自社が該当するかは、この括弧まで読んでから判断してください。
法定の科目と時間は、合計12時間
科目と時間は労働安全衛生規則の第40条第2項が表で定めています。
| 事項 | 内容 | 最低時間 |
|---|---|---|
| 法第60条第1号 | 作業手順の定め方/労働者の適正な配置の方法 | 2時間 |
| 法第60条第2号 | 指導及び教育の方法/作業中における監督及び指示の方法 | 2.5時間 |
| 規則第40条第1項第1号 | 危険性又は有害性等の調査の方法/その結果に基づき講ずる措置/設備、作業等の具体的な改善の方法 | 4時間 |
| 同第2号 | 異常時における措置/災害発生時における措置 | 1.5時間 |
| 同第3号 | 作業に係る設備及び作業場所の保守管理の方法/労働災害防止についての関心の保持及び労働者の創意工夫を引き出す方法 | 2時間 |
| 合計 | 12時間 |
いちばん上に「作業手順の定め方」が置かれています。技能伝承のためにこれから作ろうとしているものが、法定教育の第一科目としてすでに名前を持っているということです。
私はここを、技能伝承の話を通す入口として使えると読みました。「新しい取り組みを始めたい」ではなく「法定でやることになっている2時間の中身を、いまの作業に合わせて作り直したい」なら、決裁の性質が変わります。
第3項の「省略できる」が、研修設計のいちばん効く条文
同じ第40条の第3項です。
3 事業者は、前項の表の上欄に掲げる事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる者については、当該事項に関する教育を省略することができる。
——労働安全衛生規則 第40条第3項
全員に同じ12時間をやらなくてよい、という根拠がここにあります。ただし判断するのは事業者なので、何をもって「十分な知識及び技能」と認めるかを社内で決めておく必要があります。
ここが技能伝承と直結します。省略の判断をするには、その人が何をできるのかを書き出す必要があるからです。つまり省略の基準を作る作業そのものが、暗黙知の棚卸しになります。
具体的には、科目ごとに次の3列を埋めるところから始められます。
| 列 | 中身 |
|---|---|
| ①この科目で扱う自社の作業 | 「段取り替え」「異常音が出たときの停止判断」など、実際の作業名で書く |
| ②いまそれができる人 | 名前で書く。1人しかいない行が、止まったら困る場所 |
| ③判断の根拠 | なぜそう決めるのか。ここが空欄のままなら、まだ形式知になっていない |
③が埋まらない行が、技能伝承の対象です。「できる/できない」ではなく「なぜそう決めるか」が書けるかで切ると、対象が絞れます。
AIに渡せるのは手順の下書き、渡せないのは作業方法の決定
そのうえで、どこにAIを当てるかです。
渡せるものは、口頭で説明してもらった内容の書き起こし、写真や動画からの手順の下書き、既存の手順書の表記ゆれの統一、抜けている工程の洗い出し——人が読んで直せる形で出てくる作業です。ベテランに文章を書かせようとして止まっている会社では、ここが一番効きます。話してもらったものを文字にするところは、人がやらなくてよい部分です。
渡せないものは、法第60条第1号の「作業方法の決定及び労働者の配置」そのものです。危険性又は有害性等の調査の結果に基づいて講ずる措置(規則第40条第1項第1号)も同じで、事業者が判断して責任を持つ部分です。AIの出力をそのまま手順として配ると、なぜその手順なのかを説明できる人がいなくなります。
研修の設計側の話は事業内職業能力開発計画の書き方に、研修会社を選ぶときの確認項目はAI研修会社の選び方チェックリストにまとめてあります。
どの作業から手順にするかを、研修を決める前に出しておく
ここまでの話は「法定の枠に何を載せるかを先に決める」に尽きます。載せるものが決まっていないまま研修を発注すると、一般的な内容が返ってきます。
自社がAIをどこまで使える状態にあるかは、AI適合度診断の10問で点数として出ます。連絡先の入力は要りません。 研修の中身と価格はAI研修にまとめてあります(1名6万円・税別からで、助成金活用時の実質1.5万円/名から。いずれのプランも訓練時間は10時間以上です)。助成金には審査があり、訓練の開始前に計画届の提出が必要です。
出典
- 労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第60条(e-Gov法令検索・2026年9月7日閲覧。法令ID
347AC0000000057はe-Gov法令APIで検証) - 労働安全衛生法施行令(昭和四十七年政令第三百十八号)第19条(e-Gov法令検索・2026年9月7日閲覧。法令ID
347CO0000000318) - 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第40条(e-Gov法令検索・2026年9月7日閲覧。法令ID
347M50002000032)
条文は引用時点のものです。自社の業種が施行令第19条に当たるかどうか、また省略の判断については、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
よくある質問
- 職長教育はどの会社に義務がありますか?
- 労働安全衛生法第60条は「その事業場の業種が政令で定めるものに該当するとき」としており、労働安全衛生法施行令第19条が建設業・製造業・電気業・ガス業・自動車整備業・機械修理業を挙げています。製造業のうち、たばこ製造業、繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く)、衣服その他の繊維製品製造業、紙加工品製造業(セロファン製造業を除く)は除かれています。
- 何時間やればよいのですか?
- 労働安全衛生規則第40条第2項の表で、作業手順の定め方・労働者の適正な配置の方法に2時間以上、指導及び教育の方法・作業中における監督及び指示の方法に2.5時間以上、危険性又は有害性等の調査とその措置・設備等の改善の方法に4時間以上、異常時と災害発生時の措置に1.5時間以上、設備及び作業場所の保守管理・創意工夫を引き出す方法に2時間以上と定められています。合計すると12時間です。
- ベテランにも同じ時間やる必要がありますか?
- 第40条第3項は「事業者は、前項の表の上欄に掲げる事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる者については、当該事項に関する教育を省略することができる」としています。省略の判断は事業者が行うため、何をもって十分と認めるかの基準を社内で決めておく必要があります。
- 技能伝承の資料づくりをAIに任せてよいですか?
- 作業手順の案文、写真や動画からの手順の書き起こし、既存手順書の表記ゆれの統一など、人が確認できる形で出てくる作業は任せられます。一方、法第60条第1号の「作業方法の決定及び労働者の配置に関すること」は事業者が行う教育の中身そのもので、危険性又は有害性等の調査の結果に基づく措置と併せて、人が判断して責任を持つ部分です。
- 職長教育とAI研修はどちらを先にやるべきですか?
- 職長教育は対象業種では法律上の義務なので、比較する対象ではありません。順番としては、法定の枠で扱う「作業手順の定め方」を先に固め、その手順を作る・更新する道具としてAIを載せるほうが、現場で使われる形になります。研修の設計に入る前に、自社のどの作業から手順化するかを決めておいてください。
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