【落とし穴】職務代行助成、賃金制度は「開始日まで」に規定しないと出ません
人材開発支援助成金の人への投資促進コース(長期教育訓練休暇制度)に、新規採用助成と職務代行助成が追加されました。研修の費用ではなく「抜けた穴を埋める費用」に助成が付く制度です。ただし職務代行助成は業務代替期間の開始日までに賃金制度を規定していないと対象外で、新規採用助成は30日未満だと0円です。厚労省のリーフレットと詳細版から要件を整理しました。

この記事でわかること
- 人への投資促進コース(長期教育訓練休暇制度)に「新規採用助成」と「職務代行助成」が追加された。研修費や賃金への助成とは別枠で追加支給される(厚労省リーフレット
LL080408開企02) - 職務代行助成でいちばん間違えやすいのは日付。代替業務に対応した賃金制度を業務代替期間の開始日までに労働協約または就業規則へ規定し、実際に賃金が1万円以上増額していることが要件。始まってから規程を直しても間に合わない
- 新規採用助成は30日未満だと0円。30日以上90日未満27万円/90日以上180日未満45万円/180日以上67.5万円の3区分で、業務代替期間が30日未満の場合は支給しないと明記されている
- 代替要員の契約始期にも条件がある。休暇取得の最初の適用日「以前1か月より後」に雇用(派遣)契約の始期があること。もともと在籍していた人を充てても新規採用助成にはならない
社員を研修に出したいのに出せない理由は、たいてい費用ではありません。1人抜けたら現場が回らない、これが実際の壁です。
その穴を埋める側にお金が付きました。人材開発支援助成金の人への投資促進コース(長期教育訓練休暇制度)に、新規採用助成と職務代行助成が追加されています。
ただし要件の中に、後からでは絶対に間に合わないものが1つ混ざっています。先にそこから書きます。
職務代行助成は、賃金制度を「業務代替期間の開始日まで」に規定していないと対象外
厚生労働省のリーフレットを引きます。
職務代行助成 ①長期教育訓練休暇取得者の従事する業務を、他の労働者に代替させていること(業務代替者は複数名でも差し支えありません。) ②業務分担を明確にし、上司等から代替業務の内容、賃金について、面談により説明していること ③代替業務に対応した賃金制度(例:業務代替手当)を業務代替期間の開始日までに労働協約又は就業規則に規定し、実際に賃金が1万円以上増額していること
——人材開発支援助成金(人への投資促進コース)改正:新規採用助成・職務代行助成を追加しました(厚生労働省
LL080408開企02・2026年9月1日閲覧。強調は筆者)
③がこの制度でいちばん危ないところです。代替が始まってから規程を直しても、その期間は取り返せません。
②の「面談により説明」も見落とされます。メールで通知した、朝礼で言った、では要件の文言と合いません。誰が・いつ・誰に・何を説明したかを記録に残すところまでが要件だと読むのが安全です。
新規採用助成は30日未満だと0円
もう一方の新規採用助成は、金額の区分が明確です。
| 業務代替期間 | 支給額 |
|---|---|
| 30日未満 | 支給しない |
| 30日以上90日未満 | 27万円 |
| 90日以上180日未満 | 45万円 |
| 180日以上 | 67万5千円 |
リーフレットは「業務代替期間が30日未満の場合、助成金は支給しません」と明記しています。29日と30日で0円と27万円が分かれます。
そして代替要員の側にも条件が3つあります。
- 長期教育訓練休暇取得者と原則として同一の事業所および部署で勤務し、業務を代替する者であること
- 所定労働時間が長期教育訓練休暇取得者の2分の1以上であること
- 長期教育訓練休暇取得の最初の適用日以前1か月より後に雇用契約(派遣契約)の始期があること
3つ目が効きます。もともと在籍していた人を配置転換で充てても、新規採用助成にはなりません。 新たに雇い入れるか、労働者派遣の役務の提供を受けることが前提です。逆に言えば、既存社員で回すなら職務代行助成のほうを見ることになります。
金額の目安(リーフレットの活用例より)
リーフレットには計算例が載っています。Aさんが1年間の有給の長期教育訓練休暇を取得し、BさんCさんに業務を割り振って業務代替手当を月3万円ずつ支払い、5か月後にDさんを新規雇用した、というケースです。
- 職務代行助成:3万円 × 2人 × 5か月 × 75% = 22万5千円
- 新規採用助成:Dさんの代替期間が180日以上なので 67万5千円
職務代行助成の助成率は代替手当の75%(月の上限16万円)です。
両方もらえるとは限りません。 リーフレットは、いずれの支給要件にも該当する場合でも、新規採用助成の業務代替者と職務代行助成の業務代替者の間で業務代替が重複している期間はいずれか一方の助成しか受けられないとしています。上の例で職務代行助成が5か月分に収まっているのは、その後をDさんが代替しているからだと読めます。
誰がいつからいつまで代替したかの記録が、そのまま金額を決めます。
前提になっている「長期教育訓練休暇制度」のほう
この2つは追加の助成なので、土台の制度に乗っていることが前提です。詳細版のご案内はこう説明しています。
2 長期教育訓練休暇制度 30日以上の長期教育訓練休暇の取得が可能な制度を導入し、実際に適用した事業主に助成(制度導入に対して20万円を支給、有給の休暇に対して、1人につき1時間あたり1,000円 最大1600時間分(大企業の場合は1人につき1時間あたり800円 最大1200時間分)の賃金助成を支給)
——人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内(詳細版)(厚生労働省
PL080803開企02・令和8年8月3日版・2026年9月1日閲覧)
同じ資料には、人への投資促進コースは令和4年度〜8年度の期間限定助成という注記も入っています。令和8年度は2026年度なので、いまが最終年度にあたる可能性があります。 延長の有無は公表されている情報で確認してください。
使うなら、この順で逆算する
日付の要件が3つあるので、カレンダーに置く順番が決まります。
| 順番 | やること | 期限 |
|---|---|---|
| 1 | 長期教育訓練休暇制度を就業規則等に導入する | 休暇の適用より前 |
| 2 | 代替業務に対応した賃金制度を労働協約または就業規則に規定する | 業務代替期間の開始日まで |
| 3 | 代替要員を雇い入れる/派遣を受ける(新規採用助成を使う場合) | 休暇の最初の適用日以前1か月より後 |
| 4 | 上司等が代替者と面談し、業務内容と賃金を説明する | 代替開始まで |
| 5 | 休暇を適用し、代替期間を記録する | — |
2番と3番の期限が逆方向を向いているのがこの制度の難しさです。規程は「開始日まで」に前倒しで、採用は「1か月より後」に後ろ倒しで。片方だけ意識していると、もう片方で落ちます。
計画届まわりの逆算は訓練計画届はいつまでに出す?に、支給申請の期限の数え方は支給申請の2か月は修了日から数えないに整理しています。
正直に書いておくと、当社のAI研修はこの制度の対象ではありません
この助成は30日以上の長期教育訓練休暇が土台です。数時間から数十時間の集合研修は、この制度の枠には入りません。
当社のAI研修は1名6万円(税別)〜で、想定しているのは事業展開等リスキリング支援コースなど別のコースのほうです(経費助成75%を使った場合の実質負担は1.5万円/名〜・訓練10時間以上・助成金活用時。受給を保証するものではありません)。この記事を読んで「うちも職務代行助成でAI研修を」とはならないので、そこは先に書いておきます。
制度ごとの対象の切り分けはAI研修に使える助成金・補助金の一覧にまとめています。
制度を選ぶ前に、誰に何を学ばせるかを決めておく
長期の休暇を取らせて学び直させるのか、10時間の研修で足りるのか。この判断は制度からではなく、自社のどこが弱いかから決まります。 逆にすると、要件は満たすけれど現場が変わらない研修になりがちです。
AI適合度診断は10問に答えるとその場で点数が出て、人・業務・データ・体制のどこが弱いかが分かります。連絡先の入力は要りません。 研修で埋める話だと分かったら、AI研修のページに助成金を使った場合の実質負担の考え方を置いています。
助成金は審査があり、要件を満たしていても支給が保証されるものではありません。申請の前に必ず管轄の労働局と最新の支給要領で確認してください。
出典
- 人材開発支援助成金(人への投資促進コース)改正:新規採用助成・職務代行助成を追加しました(厚生労働省
LL080408開企02、2026年9月1日閲覧) - 人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内(詳細版)(厚生労働省
PL080803開企02・令和8年8月3日版、2026年9月1日閲覧) - 人材開発支援助成金(厚生労働省)(2026年9月1日閲覧)
よくある質問
- 職務代行助成とは何ですか?
- 人材開発支援助成金の人への投資促進コース(長期教育訓練休暇制度)に追加された助成です。長期教育訓練休暇を取得した労働者の業務を、周囲の労働者に代替させ、業務代替手当などを支払った中小企業事業主に対して、その手当の75%(月の上限16万円)が支給されます。賃金助成や経費助成とは別に追加で支給される枠です。
- 新規採用助成はいくら支給されますか?
- 対象となる長期教育訓練休暇取得者1人につき、業務代替期間に応じて3区分です。30日以上90日未満で27万円、90日以上180日未満で45万円、180日以上で67万5千円。厚労省のリーフレットには、業務代替期間が30日未満の場合は助成金を支給しないと明記されています。
- 新規採用助成と職務代行助成は両方もらえますか?
- いずれの支給要件にも該当する場合でも、新規採用助成における業務代替を行う者と職務代行助成における業務代替を行う者の間で業務代替が重複している期間については、いずれか一方の助成しか受けられないとされています。重複しない期間についてはそれぞれ判断されることになるので、誰がいつからいつまで代替したかを記録しておく必要があります。
- 就業規則はいつまでに直せばよいですか?
- 職務代行助成の要件では、代替業務に対応した賃金制度を「業務代替期間の開始日までに」労働協約または就業規則に規定していることとされています。つまり代替が始まってから遡って規程を整えることはできません。休暇の開始日から逆算して、規程の改定と労働基準監督署への届出を先に済ませておく必要があります。
- AI研修にもこの助成は使えますか?
- この助成は長期教育訓練休暇制度が前提で、詳細版のご案内では30日以上の長期教育訓練休暇の取得が可能な制度を導入し実際に適用した事業主が対象とされています。数時間から数十時間の集合研修はこの制度の対象ではなく、事業展開等リスキリング支援コースなど別のコースで検討することになります。制度は改正されるため、申請前に必ず管轄の労働局と最新の支給要領で確認してください。
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