【病院】職員向けAI研修、チャットの名前で罰金の上限が倍です
医療機関で生成AIを使うとき、越えてはいけない線は医師法第17条です。条文はわずか14文字で、だからこそ判断は現場に委ねられます。罰則の条文、医療法第6条の5の広告規制、職種別の可否表まで整理し、研修で渡すべき判断基準の形にしました。

この記事でわかること
- 医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」の14文字のみ。線引きの具体は条文に書かれていないので、研修では条文の暗記ではなく「迷ったらやらない側に倒す」判断基準を渡す
- 罰則は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(医師法第31条第1項第1号)。医師またはこれに類似した名称を用いた場合は罰金が200万円以下に上がる。AIチャットの名前の付け方が直接ここに触れる
- 医療法第6条の5の広告規制は主語が「何人も」。AIが生成した文章を院内掲示やWebに載せた時点で、医療機関の広告として扱われうる
- 電子カルテの記載は要配慮個人情報。職種別に「入れてよい情報」と「出させてよい回答」を分けた表を作り、判断させない設計にする
医療機関でAI研修を考えるとき、事務長や院長が本当に知りたいのは「何ができるか」ではないと思います。「どこまでやったら怒られるのか」のほうです。
この線がはっきりしないまま研修をやると、職員は結局こわくて使いません。逆に線を引かずに使い始めると、あとで取り返しがつかない。だから最初に、法律がどこに線を引いているかを確認します。
個別の事案が医行為に当たるかどうかは判断が分かれるため、実際の運用は所管の保健所・顧問弁護士にご確認ください。
病院の職員向けAI研修で最初に押さえる条文は、たった14文字
越えてはいけない線を定めているのは、医師法第17条です。全文がこれだけです。
(前略) 第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
——医師法(昭和23年法律第201号)第17条(e-Gov法令検索。2026年8月23日閲覧)
14文字。 これが医療機関でAIを使うときの、いちばん重い制約です。
注目してほしいのは、「医業とは何か」がこの条文に書かれていないことです。何が医行為に当たるかは、通知や解釈の積み重ねで判断されています。つまり条文を読んでも線は引けない。
だから研修で条文の暗記をさせても意味がないんです。渡すべきなのは「迷ったらやらない側に倒す」ための、具体的な判断基準のほうです。
罰則を先に見せる
線の重さを共有するために、私は研修の冒頭で罰則を読み上げます。
第三十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 一 第十七条の規定に違反した者 (中略) 2 前項第一号の罪を犯した者が、医師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、三年以下の拘禁刑若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
——医師法第31条(同上・強調は筆者)
第2項に注意してください。 医師またはこれに類似した名称を用いた場合、罰金の上限が100万円から200万円に倍になります。
これはAI導入と直接ぶつかります。院内のチャットボットに「AIドクター」「○○先生AI」のような名前を付けるのは、この条文の観点から避けたほうがいい。名前ひとつで法的な扱いが変わりうるという話は、研修で伝えると全員の姿勢が変わります。
私が設計するなら、名称は「受付案内」「予約サポート」のように、役割だけを表す言葉にします。かわいい名前を付けたい気持ちは分かりますが、ここは我慢どころです。
AIに言わせてよい回答と、言わせてはいけない回答
線引きを、患者に返す回答の型で分けます。これが実務でいちばん使えます。
| 回答の型 | 例 | 可否 |
|---|---|---|
| 診療時間・休診日・アクセスの案内 | 「土曜は午前のみです」 | 可 |
| 院内の手続きの説明 | 「初診の方は保険証と問診票が必要です」 | 可 |
| 予約の受付・変更 | 「◯日◯時で承りました」 | 可 |
| 一般的な健康情報の紹介(出典つき) | 「厚生労働省のページではこう案内されています」 | 慎重に可 |
| 症状から受診の要否を判断する | 「その症状なら様子を見て大丈夫です」 | 不可 |
| 診断名を示唆する | 「◯◯の可能性があります」 | 不可 |
| 薬の可否・量を答える | 「その薬は飲み合わせて問題ありません」 | 不可 |
| 検査や治療の必要性を判断する | 「レントゲンは不要でしょう」 | 不可 |
不可の4行に共通するのは、患者の行動を医学的判断にもとづいて左右している点です。ここに踏み込んだ瞬間に、医行為に近づきます。
実装としては、この4類型をシステムプロンプトで明示的に禁止し、該当する質問が来たら「受付にお繋ぎします」で止める設計にします。AIに判断させるのではなく、判断させないのが設計方針です。
「様子を見て大丈夫です」は、いちばん危ない一文だと思っています。 悪意なく、親切のつもりで出てしまう型だからです。
医療法第6条の5は、主語が「何人も」です
もうひとつ、見落とされやすい条文があります。広告規制です。
第六条の五 何人も、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(中略)をする場合には、虚偽の広告をしてはならない。 2 前項に規定する場合には、(中略)広告の内容及び方法が、次に掲げる基準に適合するものでなければならない。 一 他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告をしないこと。 二 誇大な広告をしないこと。 (後略)
——医療法(昭和23年法律第205号)第6条の5(e-Gov法令検索。2026年8月23日閲覧・強調は筆者)
主語が「何人も」で、方法も「文書その他いかなる方法によるを問わず」です。
つまり、AIが生成した文章であっても、それを院内掲示やホームページ、SNSに載せた時点で、医療機関の広告として規制の対象になりうるということです。「AIが勝手に書いた」は通りません。
生成AIは、頼んでいなくても「地域で最も」「安心・安全」「痛くない」といった表現を足してきます。これは第2項第一号(比較優良広告)・第二号(誇大広告)に正面から当たる型です。
なので研修では、この一文を必ず入れます。AIが書いた文章を、人が読まずに公開しない。当たり前に聞こえますが、広報担当が1人しかいない医療機関では、実際に起きます。
職種別に、入れてよい情報を分ける
医療機関は職種によって扱う情報がまったく違います。ひとまとめのルールにすると、必ず誰かにとって厳しすぎるか、誰かにとって緩すぎます。
| 職種 | AIに入れてよい情報 | 入れてはいけない情報 |
|---|---|---|
| 医師 | 一般的な文献調査、院内文書のたたき台 | 電子カルテの記載、患者を特定できる情報 |
| 看護師 | 手順書の整形、研修資料の作成 | 看護記録、患者氏名・ID・病名 |
| 医療事務 | レセプト業務の一般的な手順、様式の書き方 | 診療報酬明細の実データ、患者の受診歴 |
| 受付 | 問い合わせ対応の文例、案内文の下書き | 予約者名簿、電話で聞いた症状のメモ |
| 広報 | 院内報の構成案、原稿の推敲 | 患者の体験談の実名部分、症例写真 |
右列に共通するのは、患者の病歴が入っているかどうかです。病歴は個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたり、原則として本人の同意なく取得・第三者提供ができません。この構造は介護の現場と同じなので、介護施設で生成AIを使うときに決めておくルールに条文つきで整理してあります。医療機関でもそのまま使える内容です。
電子カルテについては、判断させないのが正解だと考えています。「匿名化すれば入れていい」というルールにすると、匿名化の巧拙が個人差で出ます。医療の場合、症例が珍しいほど匿名化しても特定されるので、そもそも入れない、で統一するほうが安全です。
顧問先データの匿名化を訓練する士業事務所のAI研修とは、ここが逆になります。士業は匿名化を教える、医療は入れさせない。業種で設計が変わるのは、扱う情報の再特定リスクが違うからです。
半日で組むなら、この構成にします
20〜30名・3時間を想定した構成です。
| 時間 | 内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 20分 | 医師法第17条と第31条を条文で読む(罰則と名称の話まで) | 線の重さを共有する |
| 20分 | 医療法第6条の5「何人も」と広告の3類型 | 出す側の責任だと理解させる |
| 30分 | 職種別に入れてよい情報を分ける(上の表を自院の帳票名に置き換え) | 判断基準を配る |
| 40分 | 禁止4類型の演習——実際に来た問い合わせを、可の型に書き換える | 手を動かさないと定着しない |
| 40分 | 実演(院内文書の整形、問診票の下書き、シフト表の説明文) | 使える実感 |
| 20分 | 院内ルールの合意(使うサービス、個人アカウント禁止、迷ったら誰に聞くか) | 持ち帰って終わりにしない |
| 10分 | 質疑 | — |
演習に40分取っているのは意図的です。 「症状の相談には答えない」と言葉で伝えても、現場では判断がつきません。実際の問い合わせ文を持ってきてもらって、「これは可、これは不可、これは書き換えれば可」を全員でやると、線が体に入ります。
助成金を使う場合は、訓練内容が要件に合うかを事前に確認してください。訓練開始前に計画届の提出が必要で、審査があるため受給が確約されるものではありません。制度は改正されます(2026年8月の改正でリスキリング助成金の対象は厳しくなりました)。不支給になりやすい理由は助成金が不支給になる理由と回避策にまとめています。
最後に、正直な線引きを
医療機関のAI活用は、患者に向く部分より、職員に向く部分から入れたほうがいいというのが私の考えです。
院内文書の整形、シフト表の説明文、研修資料の下書き、議事録。ここには医師法も広告規制もかかりません。効果が出るのも早い。患者と直接やり取りする部分は、院内での運用が固まってからで遅くありません。
「受付の電話をAIに取らせたい」というご相談はよく耳にする話ですが、そこを最初に手を付けると、上に書いた論点を全部いっぺんに処理することになります。順番を変えるだけで、難易度がかなり下がります。
研修の進め方や費用はAI研修のページをご覧ください。カリキュラムは、持参いただいた実際の問い合わせ記録に合わせて組み替えています。医療機関の場合、どの問い合わせが来ているかで設計がまったく変わるからです。
線引きを決めたあとに、どこから手を付けるかを見る
医行為に当たらない範囲が見えたら、次はその範囲の中でどの作業がいちばん重いかです。ここを外すと、安全だが効果の薄い導入になります。
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出典(すべて2026年8月23日閲覧)
条文は引用時点のものです。ある行為が医行為に当たるかどうかは個別の事情によって判断が分かれます。実際の運用にあたっては、所管の保健所および顧問弁護士にご確認ください。助成金の要件・金額は改正されることがあるため、必ず厚生労働省の最新資料と管轄の労働局で確認してください。
よくある質問
- 病院の職員がAIに患者の症状を入力して回答させると医師法違反になりますか?
- 職員がAIの回答を患者に伝えて診断や受診の要否を判断させれば、医業に当たると評価される可能性があります。医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めるのみで具体的な線引きを示していないため、実務では医行為に近づかない設計にするのが安全です。個別の判断は所管の保健所や顧問弁護士にご確認ください。
- 医師法違反の罰則はどうなっていますか?
- 医師法第31条第1項第1号により、第17条に違反した者は3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはこれを併科するとされています。同条第2項では、医師またはこれに類似した名称を用いた場合、罰金が200万円以下に引き上げられます。
- AIが書いた文章をホームページに載せるのは問題ありますか?
- 医療法第6条の5の広告規制は主語が「何人も」で、文書その他いかなる方法によるかを問わず適用されます。AIが生成した文章でも、医療機関の広告として虚偽広告・比較優良広告・誇大広告の禁止に触れる可能性があります。公開前に人が確認する運用を必ず入れてください。
- 電子カルテの内容をAIに入力してもいいですか?
- 病歴は個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたるため、原則として本人同意なく取得・第三者提供はできません。入力内容が外部に保存・学習利用される設定のサービスへ渡す運用は避けてください。判断させず「入れない」を規定にするのが実務的です。
- 医療機関向けのAI研修は人材開発支援助成金の対象になりますか?
- 訓練内容と事業所の状況によります。共通するのは、訓練開始前に計画届の提出が必要で、審査があるため受給が確約されるものではないという点です。制度は改正されるため、必ず厚生労働省の最新資料と管轄の労働局でご確認ください。
助成金を使えば、実質1/4
医療機関では、職種によって「AIに何をやらせるか」が大きく変わります。助成金は対象者の職務に直接必要な内容かで判断されるため、カリキュラムを職務に合わせて組むことが要件面でも効いてきます。対象になるかの確認から申請書類の準備まで、無料でサポートします。
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