【建設業】職長へのAI研修、職長教育と混ぜたら助成金が消えます
建設業で職長にAI研修をするとき、法定の職長教育(労働安全衛生法第60条・合計12時間)と混ぜてはいけません。法令で義務付けられた講習は助成金の対象外だからです。職長教育の法定科目を起点に職務直結性を説明する方法と、スマホしかない現場での研修設計を条文をもとに整理しました。

この記事でわかること
- 法定の職長教育(労働安全衛生法第60条)とAI研修は分けて設計する。法令等で実施が義務付けられている講習は助成金の対象外なので、混ぜると全体が説明しづらくなる
- 職長教育の法定科目は安衛則第40条で決まっており、時間は合計12時間(2+2.5+4+1.5+2)。この科目名を起点にAI研修を組むと、職務直結性の説明がしやすい
- 2026年8月3日の支給要領改正で職務との直結性が厳しく見られるようになった。「全社員向けAIリテラシー」では外れやすく、「職長向け・作業手順書の作成」なら説明できる
- 現場にPCが無い前提で設計する。事業展開等リスキリング支援コースは実訓練時間10時間以上が要件なので、半日×数回など集合で確保する組み方が現実的
「職長にもAIを使わせたい。職長教育とまとめてやれないか」。建設会社でAI研修を組むとき、まず思いつく発想だと思います。
やめたほうがいいです。理由は現場の都合ではなく、助成金の設計上の話です。職長教育は法令で義務付けられた講習なので、助成金の対象から外れます。同じ日程に混ぜると、どこまでが助成対象なのかを説明できなくなる。
ただし、職長教育の法定科目そのものは、AI研修を設計するうえで最高の骨組みになります。この記事ではその使い方を書きます。
制度は改正されるので、最終確認は最新の条文と管轄の労働局でお願いします。
建設現場の職長へのAI研修は、法定の職長教育と分けて設計する
まず、職長教育が何なのかを条文で押さえます。
事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなつた職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。 一 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。 二 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること。 三 前二号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な事項で、厚生労働省令で定めるもの
——労働安全衛生法 第六十条(e-Gov法令検索、2026年8月21日閲覧)
「行なわなければならない」——義務です。そして人材開発支援助成金では、法令等で実施が義務付けられている講習は対象外とされています。つまり職長教育に助成金は使えません。
一方、職長向けのAI活用研修は法定義務の講習ではないので、対象になり得ます。だから分けて設計する。日程も分ける。ここを混ぜると、労働局に説明するときに苦労します。
職長教育の法定科目は、そのままAI研修の骨組みになる
ここからが本題です。職長教育で何を教えるかは、労働安全衛生規則第40条第2項で科目と最低時間まで決まっています。
| 科目 | 最低時間 |
|---|---|
| 作業手順の定め方/労働者の適正な配置の方法 | 2時間 |
| 指導及び教育の方法/作業中における監督及び指示の方法 | 2.5時間 |
| 危険性又は有害性等の調査の方法/その結果に基づき講ずる措置/設備、作業等の具体的な改善の方法 | 4時間 |
| 異常時における措置/災害発生時における措置 | 1.5時間 |
| 作業に係る設備及び作業場所の保守管理の方法/労働災害防止についての関心の保持及び労働者の創意工夫を引き出す方法 | 2時間 |
| 合計 | 12時間 |
この科目名は、職長が実際にやっている業務の一覧です。だからAI研修のカリキュラムを作るとき、ここから引いてくれば「職務に直接必要」の説明がそのまま成立します。
私が組むなら、こう対応させます。
| 職長教育の法定科目 | 職長向けAI研修で扱う内容 |
|---|---|
| 作業手順の定め方 | 過去の作業手順書をもとに、今回の工種向けの手順書のたたき台を作らせる。危険箇所の抜けをAIに指摘させる |
| 労働者の適正な配置の方法 | 資格・経験・当日の人員から配置案を複数出させて比較する(最終判断は職長) |
| 指導及び教育の方法 | 新規入場者教育の説明内容を、やさしい日本語や外国人技能実習生向けに書き換えさせる |
| 危険性又は有害性等の調査の方法 | KY活動の記録を音声入力から起こす。過去のヒヤリハットから類似作業のリスクを引かせる |
| 異常時における措置 | 想定問答を作らせて、朝礼で読み合わせる |
| 設備・作業場所の保守管理 | 点検記録の写真から所見の下書きを作らせる |
注意点を1つ。この表は「AIに判断させる」ではなく「AIに下書きを作らせて、職長が判断する」という組み方にしてあります。安全に関わる判断をAIの出力のまま採用させる研修にしてはいけません。ここは研修の中で明確に線を引いてください。
職務直結性の説明は、この科目名を使う
2026年8月3日に人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)の支給要領が改正され、対象労働者の職務に直接必要な内容かが厳しく見られるようになりました。職種を問わず共通して必要な内容は対象外という整理です。改正の中身は2026年8月3日改正のポイントにまとめました。
この改正を踏まえると、カリキュラム名の付け方が効いてきます。
- ❌ 「全社員向け 生成AIリテラシー研修」 — 職種を問わない共通スキルに見える
- ⭕ 「職長向け 作業手順書・KY記録の作成におけるAI活用」 — 職長という職務に直接必要だと読める
同じ内容でも、後者のほうが説明できます。法定科目の言葉をカリキュラム名に使うのが、いちばん手堅い方法です。
なお助成金には審査があり、受給が確約されるものではありません。訓練開始前に計画届を提出することも前提です。研修を始めてしまってから遡って申請することはできません。
スマホしかない現場をどう設計するか
建設現場のAI研修が他業種と決定的に違うのがここです。職長にPCが支給されていない会社が普通にあります。
この前提を無視して「プロンプトの書き方」を教えると、研修が終わった翌日から誰も使いません。長文の指示をスマホで打つのは現実的ではないからです。
スマホ前提なら、こう寄せます。
- 音声入力を主にする — KY記録も日報も、話して起こす。キーボードを打たせない
- 写真から作らせる — 点検箇所を撮って所見の下書きを出す。撮る手間はもともと発生している
- 定型文をあらかじめ用意する — 毎回ゼロから書かせない。会社側で雛形を配る
- 演習用にタブレットを数台 — 研修当日だけ共有機を用意する。全員分は要りません
助成金を使うなら、時間の要件も見ておいてください。事業展開等リスキリング支援コースでは、OFF-JTで実訓練時間10時間以上が助成対象の要件とされています。1回2時間を1回だけ、では入口で外れる。現場の都合を考えると、半日×3回あたりが落としどころになることが多いです。
ちなみにeラーニングで時間を稼ぐ手もありますが、eラーニングは経費助成のみで賃金助成の対象外とされている点に注意してください(eラーニングは助成対象になるか)。集合研修と同じ感覚で試算すると、助成額が想定とずれます。
最初の1回は、朝礼の10分から
いきなり12時間の研修を組むより、私が勧めているのはこれです。朝礼で職長が読み上げる安全指示を、前日にAIで下書きさせる。それだけを2週間やってもらう。
理由は2つあります。ひとつは、毎日必ず発生する業務なので習慣化しやすいこと。もうひとつは、AIの出力をそのまま使うと危ないと現場が自分で気づくことです。過去の類似作業から引いてきた指示が、今日の現場と微妙に合わない。この経験を先にしてもらうと、本研修での「判断は人がやる」という話が腹落ちします。
この下地があってから正式な研修を組むほうが、たぶん身につき方が違います。手前味噌ですが、弊社のAI研修も職種別にカリキュラムを分ける前提で設計しています。研修会社を選ぶときの見方はAI研修会社の選び方チェックリスト12項目に整理しました。
制度・条文は改正されます。実施の前に、最新の条文と管轄の労働局でご確認ください。
朝礼の10分を始める前に、自社の現在地を測っておく
小さく始めるのは正しいのですが、どこから始めるかを外すと続きません。いちばん時間を食っている作業から入るのが定石です。
AI適合度診断は10問の選択式で、その場で点数が出ます。連絡先の入力は要りません。 研修の中身はAI研修、書類や記録を仕組みで替えるならAI概算見積もり(無料・約3分)が近いです。
出典(2026年8月21日閲覧。制度・条文は改正される場合があります)
よくある質問
- 職長教育とAI研修は一緒にやってもいいですか?
- 分けることをおすすめします。職長教育は労働安全衛生法第60条に基づく法定の教育で、人材開発支援助成金では「法令等で実施が義務付けられている講習」が対象外とされています。同じ日程に混ぜると、どこまでが助成対象なのかの説明が難しくなります。別の訓練として設計してください。
- 職長教育は何時間必要ですか?
- 労働安全衛生規則第40条第2項で科目ごとの最低時間が定められており、作業手順の定め方等が2時間、指導及び教育の方法等が2.5時間、危険性又は有害性等の調査等が4時間、異常時等における措置が1.5時間、設備の保守管理等が2時間で、合計12時間以上です。十分な知識及び技能を有すると認められる者は、当該事項の教育を省略できるとされています。
- 職長向けのAI研修は助成金の対象になりますか?
- 対象になり得ます。職長向けのAI活用研修は法定義務の講習ではないためです。ただし2026年8月3日の支給要領改正で、対象労働者の職務に直接必要な内容かが厳しく見られるようになりました。「作業手順書の作成」「KY活動の記録」など職長の実務に紐づけた設計が必要です。審査があり、受給が確約されるものではありません。
- 現場にPCがなくてもAI研修はできますか?
- できます。ただし設計を変える必要があります。スマホ前提なら、長文の指示を書かせる練習より、音声入力からの下書き生成や写真からの記録作成といった、片手で完結する使い方に寄せてください。演習用に共有タブレットを数台用意する方法もあります。
- 助成金を使うには何時間の研修が必要ですか?
- 事業展開等リスキリング支援コースでは、助成対象となるのはOFF-JTで実訓練時間が10時間以上の訓練とされています。1回2時間の研修を1回だけ、という組み方では入口で外れます。半日×3回などで確保する設計が現実的です。訓練開始前の計画届の提出も必要です。
助成金を使えば、実質1/4
建設業では、職種によって「AIに何をやらせるか」が大きく変わります。助成金は対象者の職務に直接必要な内容かで判断されるため、カリキュラムを職務に合わせて組むことが要件面でも効いてきます。対象になるかの確認から申請書類の準備まで、無料でサポートします。
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