【運送業】AI研修、運行管理者と配車担当で内容が逆になります
運送業でAI研修を組むとき、運行管理者と配車担当に同じ内容を教えると失敗します。運行管理者の業務は貨物自動車運送事業輸送安全規則第20条に17項目が名指しで列挙されていて、そこに書かれた業務はAIに肩代わりさせられません。条文を引いて、AIに任せてよい業務とだめな業務を分け、研修の対象者ごとの中身まで落とし込みました。

この記事でわかること
- 研修を分ける基準は「条文に名前が出てくるか」。貨物自動車運送事業輸送安全規則第20条は運行管理者が「行わなければならない」業務を17項目を名指しで挙げている。ここに載っている業務はAIに肩代わりさせられない
- 点呼はその典型。第7条は対面(または国交大臣が定める同等の方法)での実施、目視等の確認、営業所ごとのアルコール検知器、記録の1年保存を求めている。AIの出番は記録の下書きまで
- 配車・ルート・荷主とのやりとりは条文に出てこない。だからAIに任せられる範囲が広い。ここを厚くするのが配車担当向けの研修
- 運行管理者の選任数は「車両数÷30(端数切捨)+1」以上(同規則第18条)。研修の対象人数はここから逆算できる
運送業でAI研修をやりたい、という話になったとき、最初に決めるのは研修会社でもカリキュラムでもありません。誰に受けさせるかです。
そして運送業の場合、この「誰に」は好みの問題ではありません。法令が業務を名指しで割り当てているので、そこから機械的に決まります。
今日は条文を実際に引いて、運行管理者と配車担当で研修の中身がなぜ逆向きになるのかを書きます。運送会社の経営者・総務・運行管理者の方に向けた記事です。
具体的な運用は所管の運輸支局にご確認ください。
運送業のAI研修を分ける基準は「条文に名前が出てくるか」です
結論から書きます。運行管理者の業務は、条文に17項目が列挙されています。
(運行管理者の業務) 第二十条 運行管理者は、次に掲げる業務を行わなければならない。 三 (中略)勤務時間及び乗務時間の範囲内において乗務割を作成し、これに従い運転者を事業用自動車に乗務させること。 六 (中略)従業員に対する指導及び監督を行うこと。 八 第七条の規定により、運転者等に対して点呼を行い、報告を求め、確認を行い、及び指示を与え、並びに記録し、及びその記録を保存し、並びに運転者に対して使用するアルコール検知器を常時有効に保持すること。 十二の二 (中略)運行指示書を作成し、(中略)運転者等に対し適切な指示を行い、運行指示書を事業用自動車の運転者等に携行させ、(中略)保存をすること。 十四の二 第十条第二項の規定により、運転者に適性診断を受けさせること。
——貨物自動車運送事業輸送安全規則(平成2年運輸省令第22号)第20条(e-Gov法令検索、2026年8月25日閲覧・抜粋、強調は筆者)
「運行管理者は、次に掲げる業務を行わなければならない」。 主語が選任された個人で、動詞が義務です。ここに並んでいる業務は、AIが代わりにやったことにはできません。
一方で、この17項目に出てこない業務があります。
- 配車の割り当てとルートの決め方
- 荷主との受注調整・条件交渉
- 求荷求車のマッチング
- 運賃の見積・請求
- 空車率や実車率の分析
条文に出てこない=AIに任せられる範囲が広い。 ここが配車担当の領域です。
だから研修は逆向きになります。
| 運行管理者向け | 配車担当向け | |
|---|---|---|
| 中心にある問い | AIに何をさせないか | AIに何をさせるか |
| 教える中身 | 業務の線引き、記録の書き方、下書きの直し方 | 実際に手を動かす。プロンプト、データ整形、比較 |
| 失敗の型 | 記録をAIの出力のまま残してしまう | 使いこなせずに元の手作業へ戻る |
| 時間の目安 | 3時間前後 | 4〜6時間(演習中心) |
これを1回の研修に混ぜると、どちらにとっても薄くなります。同じ会社の同じ部署でも、負っている義務が違うからです。
点呼が、いちばん分かりやすい例です
「点呼をAIで自動化できないか」は、よく思いつく発想だと思います。条文を読むと、どこまでが可能かがはっきりします。
(点呼等) 第七条 貨物自動車運送事業者は、事業用自動車の運行の業務に従事しようとする運転者等に対して対面により、又は対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法(運行上やむを得ない場合は電話その他の方法。)により点呼を行い、次の各号に掲げる事項について報告を求め、及び確認を行い、並びに(中略)必要な指示を与えなければならない。 一 運転者に対しては、酒気帯びの有無 二 運転者に対しては、疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全な運転をすることができないおそれの有無
4 (中略)アルコール検知器(中略)を営業所ごとに備え、常時有効に保持するとともに、(中略)酒気帯びの有無について確認を行う場合には、運転者の状態を目視等で確認するほか、当該運転者の属する営業所に備えられたアルコール検知器を用いて行わなければならない。
5 (中略)点呼を行い、報告を求め、確認を行い、及び指示をしたときは、運転者等ごとに(中略)記録し、かつ、その記録を一年間保存しなければならない。
——同規則第7条(同上・抜粋、強調は筆者)
「目視等で確認するほか、アルコール検知器を用いて」。 二重に人の行為が要求されています。ここをAIに置き換える余地はありません。
では、AIはどこで効くのか。記録のほうです。
第5項は記録事項として、点呼を行った者と受けた者の氏名、車両を識別できる表示、点呼の日時、点呼の方法、その他必要な事項を挙げ、1年間の保存を求めています。この「書いて、残して、後から探せる状態にする」部分は、実務では相当な手間です。
- 手書きの点呼記録簿を検索できる形にする
- 指示内容の書き方を揃える(人によって粒度がバラバラになりがち)
- 1年ぶんの記録から、特定の運転者・特定の日付を引く
研修で運行管理者に教えるのは、この線引きそのものです。 「点呼はAIにやらせない。点呼の記録はAIに手伝わせてよい。ただし内容の確認と保存の責任は自分にある」——これが腹に落ちていないと、便利な道具が入った瞬間に線を越えます。
研修の対象人数は、車両数から計算できます
「何人受けさせればいいか」も条文から出ます。
(運行管理者等の選任) 第十八条 一般貨物自動車運送事業者等は、(中略)事業用自動車の運行を管理する営業所ごとに、当該営業所が運行を管理する事業用自動車の数を三十で除して得た数(その数に一未満の端数があるときは、これを切り捨てる)に一を加算して得た数以上の運行管理者を選任しなければならない。
2 一の営業所において複数の運行管理者を選任する(中略)者は、それらの業務を統括する運行管理者(以下「統括運行管理者」という。)を選任しなければならない。
——同規則第18条(同上・抜粋、強調は筆者)
計算するとこうなります。
| 営業所の車両数 | 必要な運行管理者(最低) |
|---|---|
| 5〜29両 | 1人 |
| 30〜59両 | 2人(+統括運行管理者の選任) |
| 60〜89両 | 3人 |
| 90〜119両 | 4人 |
※5両未満の営業所には、地方運輸局長が支障なしと認める場合の例外があります(同条第1項ただし書)。
そして実務では、補助者(同条第3項)も研修に入れておくべきだと思います。点呼を実際に回しているのが補助者、という営業所は珍しくありません。線引きを知らない人が現場で運用すると、そこから崩れます。
助成金を使うなら、職務で切ったほうが説明しやすい
AI研修には人材開発支援助成金が使える可能性がありますが、2026年8月3日の改正で対象の判断が厳しくなりました。 対象者の職務に直接必要な内容かどうかが見られます。
この点でも、運行管理者向け・配車担当向けと職務で切った設計のほうが説明しやすいはずです。「全社員向けの生成AI基礎研修」という組み方は、いま通りにくくなっています。詳しくは改正の内容をまとめた記事に書きました。
なお2026年5月14日以降に計画届を出した分から、支給申請時に受講料が適正だと事業主の代表者名で申告する書類が必要になっています。発注の段階で他社講座の価格を見た記録を残しておいてください(様式第28号の解説)。
助成金には審査があり、受給は保証されません。 訓練開始前の計画届も必要です。
実際のカリキュラムの組み方
当社が運送業向けに組むなら、こうします。
運行管理者・補助者向け(3時間前後)
- 第20条の17項目を一覧で見せる(30分)— まず「自分が何を義務づけられているか」を確認する
- AIにさせない業務の確定(45分)— 点呼、乗務割の最終判断、指導監督の実施、運行指示書の指示
- AIに手伝わせる業務(60分)— 点呼記録の整形と検索、指導記録の下書き、日報からの傾向抽出
- 記録の書き方演習(45分)— AIの下書きをどう直すか。そのまま残さない練習
配車担当向け(4〜6時間)
- 手を動かす時間を最初に置く(配車表・荷主メール・見積の下書き)
- 社外に出してよい情報の線引き(荷主名・住所・数量をどう扱うか)
- 前日比・週次の集計を自分で出せるようにする
分ける理由をもう一度書いておきます。 運行管理者に「AIでこんなに効率化できます」と教えると、線を越える方向に力が働きます。配車担当に「これはやってはいけません」ばかり教えると、使わないまま終わります。同じ内容では、どちらかが必ず外れます。
研修の進め方はAI研修のページにまとめています。まず1営業所で試して、線引きが現場で守られるかを見てから横展開するのが安全です。
最後に
正直に言うと、運送業でAI研修より先に効くことがあります。いま点呼記録が紙のままなら、そちらを電子化するほうが早いです。研修で覚えたことを試す場所がないと、翌週には戻ります。
とはいえ、電子化してもAIの使いどころを誤ると、記録の信頼性が下がって元も子もありません。道具を入れる前に線引きを共有しておくという意味では、研修が先でも構いません。順番はどちらでもよくて、片方だけで終わらせないことが大事だと思っています。
点呼記録のシステム化そのものについては開発ブログの記事に、業種ごとにルールの作り方が変わる話は介護施設の例に書きました。
運用に落とす前に、どの作業から替えるかを決めておく
点呼・日報・配車のどれから替えるかで、必要な手当ても、効き方もまったく変わります。先に1つ選んでください。
AI適合度診断は10問の選択式で、その場で点数が出ます。連絡先の入力は要りません。 研修の中身はAI研修、記録の仕組みごと替えるならAI概算見積もり(無料・約3分)で概算が出ます。
出典(すべて2026年8月25日閲覧)
条文は引用時点のものです。個別の運用が要件を満たすかどうかは事情によって判断が分かれます。実際の運用にあたっては、所管の運輸支局および顧問の社会保険労務士・行政書士にご確認ください。助成金についても、申請前に必ず最新の支給要領と管轄の労働局の案内をご確認ください。
よくある質問
- 運送業のAI研修は運行管理者と配車担当で分ける必要がありますか?
- 分けることをおすすめします。運行管理者には貨物自動車運送事業輸送安全規則第20条で17項目の業務が名指しで義務づけられており、その多くは「行わなければならない」と書かれた本人の行為です。ここを厚くすると研修は「AIに何をさせないか」が中心になります。一方、配車やルート、荷主との調整は条文に出てこないので、AIに任せられる範囲が広く、研修も「何をさせるか」中心になります。教える中身が逆向きなので、同じ回に混ぜると薄くなります。
- 点呼をAIやシステムに任せることはできますか?
- 点呼そのものは任せられません。同規則第7条は、対面により、または対面と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法で行うこととし、酒気帯びの有無は運転者の状態を目視等で確認したうえで、営業所に備えたアルコール検知器を用いて確認するよう定めています。記録の下書きや入力補助、記録の検索・集計にAIを使うのは有効ですが、確認と指示の主体は人のままです。
- 研修の対象人数はどう見積もればよいですか?
- 運行管理者については同規則第18条が「事業用自動車の数を30で除して得た数(端数切捨)に1を加算した数以上」の選任を求めているので、車両数から最低人数が出ます。複数選任する営業所では統括運行管理者も必要です。実務では補助者(第18条第3項)も研修対象に含めると、点呼の運用が回りやすくなります。
- AI研修に助成金は使えますか?
- 人材開発支援助成金の対象になり得ますが、審査があり受給は保証されません。2026年8月3日の改正で、対象者の職務に直接必要な内容かが厳しく見られるようになりました。運送業の場合、「全社員向けの生成AI基礎」ではなく「運行管理者向け」「配車担当向け」と職務で切った設計のほうが説明しやすいはずです。訓練開始前の計画届が必要な点にもご注意ください。
- 何時間くらいの研修が必要ですか?
- 助成金を使う場合はコースごとの時間数要件があるため、半日単発では届かないことがあります。中身の面でも、運行管理者向けは「使わせない業務の線引き」と「記録の書き方」で3時間前後、配車担当向けは実際に手を動かす時間を含めて4〜6時間を目安にしています。まず1営業所で試してから横展開するのが安全です。
助成金を使えば、実質1/4
運送業では、職種によって「AIに何をやらせるか」が大きく変わります。助成金は対象者の職務に直接必要な内容かで判断されるため、カリキュラムを職務に合わせて組むことが要件面でも効いてきます。対象になるかの確認から申請書類の準備まで、無料でサポートします。
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