ChatGPTで契約書をチェックする手順|抜けは指摘されませんでした
架空の業務委託契約書に6つの穴を仕込んで、AIに下読みさせました。「この契約書をチェックして」とだけ頼むと、書いてある条文の問題は4つ挙がりましたが、再委託と解約予告という「そもそも条項が無い」2つは出てきませんでした。欠落を出させるプロンプトと、どこから先は弁護士に回すかの判定表を、実行結果つきで書きました。

この記事でわかること
- 架空の業務委託契約書に6つの穴を仕込んで実行した。「この契約書をチェックして」だけでは4つしか出ず、再委託と解約予告という「条項そのものが無い」2つは出てこなかった
- 理由は単純で、書いてある文には手がかりがあるが、無い条項には手がかりが無いから。出力の形に「この契約書に書かれていない項目」の枠を作ると、6つとも出た
- 観点リストを渡すのが効く(検収・支払・権利・責任・再委託・終了の6つ)。AIに観点を考えさせるのではなく、こちらが渡す
- 当社は法律事務所ではない。この手順は下読みまでで、締結の判断は弁護士に回す。判定表にその線を引いた
架空の業務委託契約書に、実務でよく問題になる穴を6つ仕込んでAIに下読みさせました。
「この契約書をチェックして」だけの結果は6つのうち4つ。出てこなかったのは再委託の可否と更新時の解約予告期間——どちらも「条項そのものが存在しない」ものです。
書いてある文には手がかりがありますが、無い条項には手がかりがありません。 以下はその回避まで含めた手順です(実行環境はClaudeですが、手順はツールに依存しません)。
ChatGPTで契約書をチェックする手順は3つに分かれる
- 渡してよい情報かを確認する(ここを飛ばさない)
- 観点リストと「書かれていない項目」の枠を渡して投げる
- どこから先を弁護士に回すかを決めておく
当社は法律事務所ではありません。 この手順で減らせるのは読む量で、締結してよいかの判断は減りません。
渡す前に決めること
契約書には相手の社名・金額・担当者名、場合によっては未公表の取引条件が入ります。「入れてよい情報/だめな情報」を先に決めないと、判断が毎回その人の感覚になります。決め方は生成AIの社内ルールの作り方に書きました。決まっていない会社は、社名を伏せ字(甲・乙)にして金額を丸めてから渡す運用にしておけば事故は起きません。この記事の契約書も架空です。
仕込んだ6つの穴
架空の業務委託契約書(甲=発注側、乙=受注側)の抜粋です。
第4条(検収)
1. 乙は本件成果物を甲に納入する。
2. 甲は納入された本件成果物を検査し、合格したときは検収完了とする。
第5条(委託料の支払)
甲は検収完了後、翌月末日までに委託料を乙の指定口座に支払う。
第6条(知的財産権)
本件成果物に関する著作権その他の知的財産権は、すべて甲に帰属する。
第7条(損害賠償)
乙は、本契約に違反して甲に損害を与えたときは、その損害を賠償する。
第9条(契約期間)
本契約の有効期間は締結日から1年とし、期間満了時に自動更新される。
仕込んだ6つは、前半4つが条文の中に手がかりがあるもの/後半2つが条項そのものが無いものに分けてあります。
- 検収の期間(日数)が無い(第4条)
- 支払期日が検収に紐づいている(第5条)
- 乙の既存資産の扱いが無い(第6条・「すべて甲に帰属」なので汎用モジュールも渡すことになりかねない)
- 損害賠償に上限・免責が無い(第7条)
- 再委託の可否の条項が無い
- 自動更新なのに解約予告期間の定めが無い(第9条)
まず、曖昧に頼んだ結果
投げたのは1行だけです。
この契約書をチェックしてください。
出てきた指摘(要点)
- 第4条に検査の期間が無く、検収完了の時期が確定しない(1つ目)
- 第5条の支払時期が検収に依存し、支払期日が一意に定まらない(2つ目)
- 第6条が「すべて甲に帰属」で、乙側の権利が留保されていない(3つ目)
- 第7条の損害賠償に上限や免責が無く、乙の負担が無限になり得る(4つ目)
4つは出ました。 出てこなかったのは5つ目(再委託)と6つ目(解約予告)——つまり条項そのものが無い2つです。無いものは、探すと決めないと見つかりません。
観点リストと「書かれていない項目」の枠を渡す
指定するのは役割・観点リスト・出力の形・禁止の4点です(プロンプトの書き方と同じ型)。
あなたは発注側の契約担当です。以下の業務委託契約書を下読みしてください。
次の6つの観点で見てください。
検収 / 支払 / 知的財産権 / 責任の範囲 / 再委託 / 契約の終了
次の3つに分けて出力してください。
1. 条文に書かれていて、条件が曖昧なもの(条番号つき)
2. この契約書に条項そのものが無い項目(観点リストと突き合わせる)
3. 弁護士に確認すべきもの
禁止:
- 法的な結論を書かない(「無効です」「違法です」と書かない)
- 契約書に無い事実を前提にしない
- 修正案の文例を勝手に作らない(論点の指摘までにする)
---
(ここに契約書を貼る)
この形で流すと、6つとも出ました。 2番の枠に「再委託に関する条項が無い」「自動更新に対する解約予告期間の定めが無い」が入り、3番に「支払期日の適法性」と「著作権の帰属範囲」が回りました。効いたのは、観点リストを渡したこと(AIに観点を考えさせない)と、「条項そのものが無い項目」という枠を作ったことの2つです。
支払期日は、法律の側に期限がある
2つ目の穴は、書き方の問題だけではありません。システム開発の外注が中小受託取引適正化法(旧・下請法)の対象になる場合、同法第3条は支払期日を「給付を受領した日から起算して、六十日の期間内において」定めることを求めています。 しかも同条は「検査をするかどうかを問わず」と書いているので、検収に時間をかけても起算日は受領日のままです。つまり「検収完了後、翌月末日」は、検収が遅れると条文の期限を越え得る書き方です。詳しくはシステム開発の外注、下請法は「発注する中小企業」も縛るにまとめました。
これをAIに自力で指摘させるのは期待しないほうがいい。 適用条件(資本金・従業員数・委託の型)は契約書に書かれていないので、AIは判断材料を持っていません。 観点リストに入れて人が当てます。
うまくいかないときの直し方
| 症状 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 抜けが出てこない | 「無い条項」を探す枠が無い | 出力の形に「条項そのものが無い項目」を作り、観点リストと突き合わせさせる |
| 「違法です」と書かれる | 法的判断を止めていない | 禁止に「法的な結論を書かない」を入れる。上のプロンプトには入れてある |
| 指摘が一般論になる | 観点を渡していない | 自社の6観点を渡す。AIに観点を考えさせない |
この作業をAIに任せてよい範囲(当社の判定)
| 工程 | AIに任せてよいか | 人が確認する場所 |
|---|---|---|
| 条文の要約・論点の洗い出し | ◯ 任せてよい | — |
| 観点リストとの突き合わせ(抜けの検出) | ◯ 任せてよい | 観点リストが自社の実態に合っているか |
| 条番号・金額・日数の引き写し | △ 下書きまで | 原本と1字ずつ突き合わせる |
| 法令の適用可否の判断 | × 任せない | 適用条件が契約書に書かれていないので、AIは材料を持っていない |
| 修正案の文例作成 | × 任せない | 弁護士に回す(文例は一見もっともらしく出る) |
| 締結してよいかの判断 | × 任せない | 必ず人が決める |
分かれ目は「契約書の中に材料があるか」です。 条文の突き合わせは材料が紙の上に全部ありますが、法令の適用可否は資本金・従業員数・取引の型という紙の外の情報で決まります。材料が外にあるものを聞くと、もっともらしい答えが返ってきます。そこがいちばん危ない。
自社で回すのが大変なとき
同じ形の確認作業が社内に何本もあるなら、それは使い方ではなく仕組みの問題です。頼む先を比べるならAI顧問サービスおすすめ7選とAIエージェント開発会社おすすめ6選にまとめました。後者は「どこで人が止めるか」で比べています——間違いがそのまま外へ出る作業では、そこが先に決まっていないと任せられません。
手順の前に、自社がどこで詰まっているかを見ておく
契約書の下読みは入口としては良いのですが、そこが一番時間を食っている作業とは限りません。
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出典
- システム開発の外注、下請法は「発注する中小企業」も縛る(当社記事。中小受託取引適正化法第3条の支払期日60日・「検査をするかどうかを問わず」の条文引用)
- 生成AIの社内ルールの作り方(当社記事)
- 業務で使えるプロンプトの書き方(当社記事)
- 本文の契約書・入力例・出力例は当社が架空データで実行したものです(実行日 2026年9月13日・実行環境 Claude)。1回ずつの実行結果です
- 当社は法律事務所ではありません。 この記事は読み方の手順で、法的助言ではありません。締結の判断は弁護士にご確認ください
よくある質問
- 契約書のチェックをAIに任せてよいのですか?
- 下読みまでです。この記事の実測では、書いてある条文の問題は挙がりましたが、条項そのものが無いところは枠を作らないと出てきませんでした。AIに任せてよいのは「読む量を減らすこと」で、締結してよいかの判断は弁護士に回してください。当社は法律事務所ではありません。
- なぜ「書かれていないこと」が出てこないのですか?
- 書いてある文には手がかりがありますが、無い条項には手がかりが無いからです。実測では、支払や著作権のように条文があるものは指摘されたのに、再委託や解約予告のように条項が存在しないものは出てきませんでした。出力の形に「この契約書に書かれていない項目」という枠を作ると出ます。
- 契約書をそのまま貼り付けてもいいですか?
- 先に社内のルールを決めてからにしてください。契約書には相手の社名・金額・担当者名が入ります。どの情報をどのツールに入れてよいかは、契約しているプランやデータの扱いによって変わります。決め方は「生成AIの社内ルールの作り方」の記事に書きました。決まっていないうちは、社名を伏せ字にして金額を丸めてから渡す運用が無難です。
- 支払期日は何日以内にすればよいのですか?
- システム開発の外注が中小受託取引適正化法(旧・下請法)の対象になる場合、同法第3条は「給付を受領した日から起算して、六十日の期間内において」定めることを求めています。同条は「検査をするかどうかを問わず」と書いているので、検収に時間をかけても起算日は受領日のままです。対象になるかの判定も含めて、詳しくは「システム開発の外注、下請法は発注する中小企業も縛る」の記事にまとめました。
- どの生成AIでも同じ手順で使えますか?
- 使えます。この手順はツールに依存しません。やっていることは「観点リストを渡す」「書かれていない項目の枠を作る」「法的判断は禁止する」の3つだけなので、ChatGPT・Claude・Geminiのどれでも同じように動きます。この記事の実行例は、当社が普段使っている環境(Claude)で実際に流したものです。
自社の場合、いくら?
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