【落とし穴】生成AIの社内ルールの作り方|入力禁止リストでは足りません
生成AIの社内ルールを「入力してはいけない情報の一覧」で作ると、条文が求めている確認が2つとも抜けます。個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)と個人情報保護法の条文から、入力してよいかをその場で判定する3問のフローに変換しました。

この記事でわかること
- 禁止リストは、条文より厳しくて、しかも足りない。個人情報保護委員会が求めているのは一律禁止ではなく、入力する場合の2つの確認です
- 確認①=特定した利用目的を達成するために必要な範囲内か(法第17条・第18条)
- 確認②=そのサービスの提供事業者が、応答の出力以外の目的でそのデータを扱わないか(機械学習に使わない設定・契約か)
- 要配慮個人情報だけは3問に入れず、別枠の即NGにする——第20条第2項で、取得そのものに原則として本人の同意が要るため
- ルールを作る側の法的な足場は第24条(従業者の監督)。周知していない状態そのものが監督の不足になる
社内で生成AIを使わせるとき、多くの会社が最初に作るのは「入力してはいけない情報の一覧」です。顧客名、マイナンバー、契約書、ソースコード。1枚のリストにして配って終わり。
これだと、条文が求めている確認が2つとも抜けます。 そのうえ一律禁止なので、使ってよかった場面まで潰してしまう。
見るべき一次情報は2つだけです。個人情報保護委員会が令和5年6月2日に出した注意喚起と、個人情報保護法の条文。この2つから、その場で判定できる3問に変換します。
条文が求めているのは禁止ではなく、2つの確認
まず、注意喚起の事業者向けの部分をそのまま引きます。
(1) 個人情報取扱事業者における注意点 ① 個人情報取扱事業者が生成 AI サービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。 ② 個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AI サービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該個人情報取扱事業者は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。そのため、このようなプロンプトの入力を行う場合には、当該生成 AI サービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。
——個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)(2026年9月2日閲覧)
「入力するな」とは書いていません。入力する場合に確認しろ、と書いてあります。
確認の中身は2つです。①利用目的の範囲内か。②そのサービスが、応答を返す以外の目的でそのデータを扱わないか。
禁止リストは、このどちらも判定していません。しかも「載っていない=使ってよい」と読めてしまう。私はここが一番危ないと考えています。
配るのはリストではなく、3問のフロー
そこで、注意喚起の①②を、社員がその場で答えられる形に置き換えます。
Q1 そもそも個人情報か
法第2条第1項の「個人情報」は、生存する個人に関する情報で、氏名・生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合でき、それにより識別できるものを含む)です。
よく迷うのが「社名だけなら大丈夫か」です。法人そのものの情報は個人情報ではありませんが、担当者名が付いた瞬間に個人情報になります。「A社の田中様との商談メモ」は個人情報です。Noならこの先2問は不要で、機密区分の判断だけが残ります。
Q2 いまの利用目的の範囲内か
Yesなら、注意喚起①の確認に入ります。根拠は次の2条です。
(利用目的の特定) 第十七条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。
(利用目的による制限) 第十八条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
——個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(e-Gov法令検索・2026年9月2日閲覧)
判定の基準は「自社が公表している利用目的に、その作業が入るか」です。 契約履行のために取得した顧客情報を、問い合わせ回答の下書き生成に使うなら範囲内。同じ情報を新商品のターゲット分析に回すなら、利用目的の記載次第で範囲外になります。
だから社内ルールには、禁止リストではなく自社のプライバシーポリシーの利用目的をそのまま貼るのが早い。照らし合わせる先を渡さずに「範囲内か確認せよ」と書いても、確認しようがありません。
Q3 そのサービスは、応答の出力以外にそのデータを使わないか
3問目が、禁止リスト型のルールで最も抜けるところです。注意喚起②が求めているのは、提供事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等の確認でした。
つまり判定対象は情報の中身ではなく、使っているサービスの設定と契約です。 ここは社員が個別に判断できる話ではないので、ルールを作る側が先に確認して、確認済みのサービスだけを名指しで許可するのが正しい形になります。
プラン名だけで判断できない点に注意してください。同じサービスでも設定で学習利用の有無が変わります。書くのは「◯◯の法人プランならOK」ではなく、「学習利用オフを会社が確認済みの環境でのみ使用可」です。
3問の外に置く、即NGの1つ
要配慮個人情報だけは、3問のフローに入れずに別枠にします。
(適正な取得) 第二十条 2 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。
——同法 第20条第2項(2026年9月2日閲覧)
要配慮個人情報は、法第2条第3項で人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他政令で定める記述等が含まれる個人情報とされています。取得の段階で原則として本人の同意が要るので、「利用目的の範囲内か」を考える手前で止まります。健康診断の結果、休職の理由。人事の資料には普通に混ざるので、ここは判定させず該当したら入力しないとだけ書いてください。
ルールを作る側の足場は第24条
「そもそも、なぜ会社がルールを作らなければいけないのか」に答える条文も置いておきます。
(従業者の監督) 第二十四条 個人情報取扱事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
——同法 第24条(2026年9月2日閲覧)
生成AIの利用が事実上始まっているのに会社が何も示していない状態は、この「必要かつ適切な監督」の側で問題になります。ルールは配って終わりではなく、周知した記録と確認済みサービス一覧の更新までが監督の中身です。
AIの学習利用と本人同意の関係は、改正法の側でも誤読が多いところです。そちらは「AI学習なら同意なしでOK」は間違いですに分けて書きました。
1枚にまとめるとこうなる
配布用に圧縮すると、次の表で足ります。
| 判定 | 見るもの | 根拠 | Noのとき |
|---|---|---|---|
| 即NG | 要配慮個人情報か(病歴・信条・犯罪の経歴など) | 法第2条第3項・第20条第2項 | 入力しない |
| Q1 | 特定の個人を識別できるか(担当者名を含む) | 法第2条第1項 | 機密区分の判断へ |
| Q2 | 公表している利用目的の達成に必要な範囲内か | 法第17条・第18条/注意喚起① | 入力しない |
| Q3 | 学習利用オフを会社が確認済みの環境か | 注意喚起② | 確認済み環境で入力する |
個人情報でなくても、営業秘密・未公表の見積・ソースコードには別のルールが要ります。 そちらは秘密保持契約と社内の機密区分の話なので、同じ紙に混ぜず章を分けてください。混ぜると、どちらの基準で判定しているのかが読み手に分からなくなります。
ルールの前に、自社がどこまで進んでいるかを出しておく
ここまでは「入力してよいか」の判定基準の話でした。ただ、ルールに要る深さは、社内でAIがどこまで使われているかで変わります。 試している段階なら確認済み環境を1つ決めれば足りますし、業務データを扱い始めているなら第24条の運用まで要ります。
AI適合度診断は10問に答えるとその場で点数が出て、人・業務・データ・体制のどこが弱いかが分かります。連絡先の入力は要りません。 すでに社内システムに組み込む前提で考えているなら、AI見積もりに書けばSIerの相場と当社の金額が1回で出ます(約3分)。ルール作りと確認済み環境の整備そのものは、当社のAI顧問(AI導入支援)で行っている作業の一部です。
条文の解釈は個別の事情で変わります。実際の社内規程の整備にあたっては、弁護士など専門家にご確認ください。 この記事は条文と注意喚起の読み方を整理したもので、法律上の助言ではありません。
出典
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)(2026年9月2日閲覧)/本文PDF
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(e-Gov法令検索、2026年9月2日閲覧)——第2条(定義)/第16条(個人データの定義)/第17条(利用目的の特定)/第18条(利用目的による制限)/第20条(適正な取得)/第24条(従業者の監督)
よくある質問
- 生成AIの社内ルールは、何から作ればよいですか?
- 入力禁止情報の一覧からではなく、個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)が求める2つの確認から作るのが確実です。①特定した利用目的を達成するために必要な範囲内か ②その生成AIサービスの提供事業者が、応答結果の出力以外の目的でそのデータを扱わないか、の2点です。禁止リストはこの2つのどちらも判定していないため、リストに載っていない情報が出てきた時点で現場が止まります。
- 「個人情報は入力禁止」と書いておけば安全ではないですか?
- 安全側ではありますが、2つ問題があります。ひとつは、条文が一律禁止を求めていないため、使える場面まで潰してしまうこと。もうひとつは、禁止と書いても守られたかどうかを確認する手段がなく、個人情報保護法第24条の従業者の監督としては弱いことです。判定の基準を渡したほうが、結果として守られます。
- 生成AIに個人情報を入力すると違法になりますか?
- 入力そのものが直ちに違法になるわけではありません。個人情報保護委員会の注意喚起は、あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合に、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとしています。したがって、機械学習に利用しないこと等を十分に確認することが求められます。
- 要配慮個人情報はどう扱えばよいですか?
- 3問の判定フローには入れず、別枠の即NGとして扱うのが安全です。個人情報保護法第20条第2項は、法令に基づく場合など限られた例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで要配慮個人情報を取得してはならないと定めています。病歴や犯罪の経歴などが該当し、これは利用目的の範囲内かどうか以前の問題になります。
- 無料版と法人向けプランで扱いは変わりますか?
- 変わり得ます。注意喚起が求めているのは「当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」なので、確認すべきはプラン名ではなく、実際の設定と利用規約・契約の内容です。同じサービスでも設定で学習利用の有無が変わることがあるため、社内ルールにはサービス名ではなく「確認済みの設定であること」を書いてください。
自社の場合、いくら?
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