生成AI翻訳のビジネスでの使い方|原文に無い情報が4か所入ります
架空の取引先メールを2回訳させて、前後を実測しました。そのまま頼むと、訳文には原文に無い情報が4か所入ります(年・曜日・回答の約束・社名の英訳)。AIは判断に迷った点を注記で4つ挙げましたが、そこに入っていなかったものが訳文に残りました。規則4つと用語集5語を足したときの前後と、人が必ず確認する欄の判定表をまとめます。

この記事でわかること
- 架空の取引先メールをそのまま訳させたら、訳文に原文に無い情報が4か所入った——年「2026」・曜日「Monday」・回答の約束(come back to you with our response)・社名の英訳(Sample Logistics Co., Ltd.)
- AIは判断に迷った点を注記で4つ挙げていた。ところが社名の英訳と回答の約束はその4つに入っていない。しかも翻訳は訳文だけを送るので、注記は相手に届かない
- 規則4つと用語集5語を足して投げ直したら、4か所とも消えた。社名は日本語のまま
[要確認]、「検討させていただきます」は中立訳+[意図を要確認]になり、申告の一覧がA 13件・B 9件に増えた - 効いたのは「訳さない」を選択肢として与えたこと。AIは「訳せません」という語彙を持っていないので、用語集に無い固有名詞は訳さず残すと先に決める
海外の取引先へ出すメールを生成AIで英訳する。ここでAIが効くのは定型の挨拶と本文の言い換えを一瞬で出してくれるところで、そこは毎回同じ作業です。
ただし訳文はそのまま相手に送るものです。そこで架空の取引先メールを渡し、そのまま訳させました。心配したのは「訳が不自然になること」でしたが、そこは起きません。 起きたのは別のことです。
本記事の入出力は、架空の社名・架空の案件で当社が実際にAIへ渡して得たものです(実行日 2026年9月18日・実行環境 Claude)。実在の取引先の情報は使っていません。
生成AI翻訳のビジネスでの使い方|渡すもの と 渡さないもの
渡したのは、架空の取引先(株式会社サンプル物流)宛ての日本語メール1通だけ。件名は「スマート配送プランの立会検査について」で、本文に立会検査の日付(10/5)・先方検収の時期・費用(1式 480,000円 税抜)・現地対応費の注記が入っています。
渡していないものを先に並べます。 ここが今回の主題です。
- 10/5 の年と曜日
- 「株式会社サンプル物流」の英文正式社名
- 「スマート配送プラン」「立会検査」「先方検収」の訳し方
- 「検討させていただきます」をどの意図で送るのか
取引先の担当者名やメールアドレスを入れてよいかは、プランの設定と社内規程で決まります。線引きの作り方は生成AIの社内ルールの作り方にまとめました。
手順1|そのまま訳させた結果
出てきた英文は自然で、そのまま送れる体裁でした。訳の品質そのものに問題はありません。 問題は原文に無い情報が訳文に入っていたことです。
| 訳文に入った表現 | 原文に相当するもの |
|---|---|
| Monday, October 5, 2026 | 「10/5」だけ(年も曜日も渡していない) |
| we will review it internally and come back to you with our response | 「社内で検討させていただきます」(回答の約束はしていない) |
| Dear ... Sample Logistics Co., Ltd. | 「株式会社サンプル物流」(英文社名を渡していない) |
| for one complete set | 「1式」(社内の定義を渡していない) |
AIは黙っていたわけではありません。 訳文の後ろに「訳す際に判断が必要だった4点」という注記を付け、「英語の we will review it internally は『検討して必ず回答する』という約束として読まれます」「10/5 は英語圏では5月10日と読まれる国がある」と、危ない理由まで自分で説明していました。
それでも訳文のほうは危ない側で確定しています。 しかも注記の4点に、社名を英訳したことと、回答の約束を足したことは入っていません。
ここが翻訳に固有のところです。送るのは訳文だけで、注記は相手に届きません。 見積書なら備考欄に断りを残せますが、訳文にその場所はありません。
手順2|うまくいかないときの直し方
同じ原文に、規則4つと用語集5語を足して投げ直しました。
【必ず守る規則】
1. 原文に書かれていない情報を訳文に足さない(年・曜日・金額・税額・条件・期限など)。
足したほうがよいと判断したものは、訳文には入れず、下の一覧に書く。
2. 用語集にある語は、その訳で固定する。用語集に無い固有名詞・社内用語は訳さず、
日本語のまま残して直後に [要確認] と付ける。
3. 日本語のあいまい表現(検討します・前向きに・善処します など)は、
私が意図を指定していなければ訳し分けず、[意図を要確認] と書く。
4. 訳文のあとに、次の2つの一覧を必ず出す。
A. 原文に無い情報を足したくなった箇所(結局足していない箇所も含む)
B. 訳を確定できなかった箇所と、その理由
用語集は5語だけ(スマート配送プラン=製品名/立会検査/先方検収/1式=one lot/現地対応費)です。
| 1回目 | 2回目 | |
|---|---|---|
| 日付 | Monday, October 5, 2026 | October 5(年も曜日も無し) |
| 検討します | review internally and come back to you | 中立の直訳+[意図を要確認] |
| 社名 | Sample Logistics Co., Ltd.(英訳) | 株式会社サンプル物流 [要確認](日本語のまま) |
| 1式 | one complete set | one lot(用語集どおり) |
| 申告の一覧 | 注記4点 | A 13件・B 9件 |
原文に無い情報は、訳文から4か所とも消えました。
効いたのは規則2です。 「訳さず日本語のまま残す」という逃げ道を与えるまで、AIは必ず何かに訳します。「訳せません」はAIの語彙にありません。 こちらが渡して、はじめて社名が日本語で残りました。
規則4も効きました。2回目は通貨を JPY と書いたことや 10/5 を月名表記にしたことまで自分でAの一覧に申告しています。残すと決めたものも申告させるのが要点で、人が見るのは一覧だけで済みます。
この作業でAIに任せてよい範囲と、人が確認する場所
翻訳は欄ごとに性格が違うので、一律に決めると必ずどちらかで損をします。
| 欄 | AIに任せてよいか | 人が確認する場所 |
|---|---|---|
| 定型の挨拶・結び | ◯ 任せてよい | 相手との関係に対して丁寧すぎないか |
| 本文の一般的な言い換え | ◯ 任せてよい | 原文の1文が2文に割れて意味が増えていないか |
| 固有名詞(社名・製品名・部署名) | × 任せない | 先方の英文正式名と一致しているか |
| 社内用語(立会検査・先方検収など) | × 任せない | 用語集にあるか。無ければ訳させない |
| 日付・数量・単位 | × 任せない | 原文に無い年・曜日が足されていないか |
| 金額・税・通貨の表記 | × 任せない | 税込か税抜か、通貨の明示が自社の運用どおりか |
| あいまい表現(検討します 等) | × 任せない | どの意図で送るかを人が決める |
| 約束にあたる文(回答する・対応する) | × 任せない | 原文に無い約束が増えていないか |
×の欄に共通するのは「答えが原文の外にある」ことです。 先方の正式社名・社内の用語集・送り手の意図。AIはそこを見られないので、渡さないかぎり作るしかありません。
自社でやるのが大変なときの頼み先
この確認を毎回人がやるなら、翻訳の時間はあまり減りません。用語集を参照先として固定し、そこに無い語を訳させない仕組みにすれば、確認する欄は固有名詞と意図だけに減ります。
仕組みとして作る場合の頼み先の選び方はAIエージェント開発会社の選び方に、AIまで含めて相談したい場合の比較は中小企業向けDXコンサルおすすめ8選にまとめています。
仕組みにする前に、用語集に何語入るかを数える
今回渡した用語集は5語でした。自社なら何語になるかを数えると、仕組みにする価値があるかが先に分かります。 数語で止まるなら、当面はプロンプトに貼るだけで足ります。
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出典
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(個人情報保護委員会・令和5年6月2日・2026-09-18 閲覧。個人情報取扱事業者に対し、個人情報を含むプロンプトの入力は「特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」、本人同意なく個人データを含むプロンプトを入力する場合は「当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を求めている)
- 本記事の入出力は、架空の社名と架空の案件で当社が実際にAIへ渡して得たものです(実行日 2026年9月18日・実行環境 Claude)
よくある質問
- 生成AIにビジネスメールの翻訳を任せてもよいですか?
- 定型の挨拶と一般的な本文は任せてよく、固有名詞・数字・約束にあたる文は人が見てください。実測では、そのまま頼んだ訳文に原文に無い情報が4か所入りました(年・曜日・回答の約束・社名の英訳)。送るのは訳文だけなので、AIが別に書いた注記は相手に届きません。本文の判定表に、欄ごとの線引きを並べています。
- 取引先の担当者名やメールアドレスを入力してもよいですか?
- 社内のルールを先に決めてください。個人情報保護委員会は「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)で、個人情報取扱事業者に対し、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力する場合は当該事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確認することを求めています。線引きの作り方は生成AIの社内ルールの作り方にまとめました。
- 用語集はどのくらい細かく作ればよいですか?
- 「訳されると困る語」だけで足ります。今回渡したのは5語(製品名・社内用語2つ・単位・費目)で、それだけで社名以外の訳ゆれが止まりました。全社の用語辞典を作る必要はありません。まず1通のメールを訳させて、人が直した箇所を用語集に足す——これを何通か繰り返すと、自社に必要な語だけが残ります。
- 「検討させていただきます」はどう訳すのが正解ですか?
- 正解は文脈で変わるので、AIに決めさせない欄です。実測1回目は "we will review it internally and come back to you with our response"(=検討して必ず回答する、という約束)になりました。AI自身も注記で「英語では約束として読まれます」と書いています。2回目は規則で意図の指定がない限り訳し分けないよう指示し、中立の直訳+
[意図を要確認]で止まりました。前向きに進めるのか、持ち帰るのか、断るのか。決めるのは人です。 - 訳文が合っているかを確認する手順はありますか?
- 逆方向に訳し直すより、先に「原文に無い情報の一覧」を出させるほうが速いです。実測2回目では、規則で「原文に無い情報を足したくなった箇所」と「訳を確定できなかった箇所」の2つの一覧を必ず出すよう指定しました。結果は A 13件・B 9件で、通貨表記を JPY にしたことや、10/5 を月名表記にしたことまで自己申告されました。人が見るのはその一覧で、訳文の全文を読み直す必要はありません。
自社の場合、いくら?
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