株式会社AIエージェント
不動産管理賃貸管理業務システム自動化

【不動産管理】入居者対応の自動化、苦情の記録が無いと報告書が書けません

賃貸管理の入居者対応をAI・自動受付にするとき、どこまでAIに任せてどこから人が出るかは、実は民法607条の2の「急迫の事情」で線が引けます。さらに国交省令は管理業務報告書に「入居者からの苦情の発生状況及び対応状況」を書けと定めているので、システムは最初からその粒度でデータを持つ必要があります。条文を引いて、受付システムのデータ設計まで落とし込みました。

佐野 泰規佐野 泰規株式会社AIエージェント 代表取締役約14分で読めます
集合住宅の壁面に整然と並ぶ、部屋番号入りの金属製メールボックス
Pexels / wal_ 172619

この記事でわかること

  • AIに任せる/人が出るの線は、民法607条の2第2号の「急迫の事情」で引ける。急迫に当たり得るものはAIに判断させず即エスカレーション、それ以外は記録して翌営業日
  • 24時間受付の最重要機能は「答えること」ではなく「通知を受けた日時を残すこと」。民法607条の2第1号の「相当の期間」は通知時点から起算されるため、記録が無いと後で争えない
  • 国交省令40条1項3号は、管理業務報告書に「入居者からの苦情の発生状況及び対応状況」を書けと定めている。受付システムは最初からこの欄に貼れる粒度でデータを持つべき
  • 帳簿は事業年度末で閉鎖し閉鎖後5年間保存(規則38条3項)。電磁的記録でよいが「必要に応じ紙面に明確に表示」できることが条件

「夜中の水漏れの電話を、もう社長の携帯で受けたくない」——賃貸管理をやっている会社で、システム化の話がいちばん最初に出てくるのはここだと思います。

ただ、この領域はどこまでAIに任せてよいかの線引きが難しい。線を引き損ねると、入居者を待たせて事故を大きくするか、逆に全部人に回して自動化の意味が消えるかのどちらかになります。

今日は、その線が実は法律側で引かれているという話を書きます。 条文を実際に引いて、最後は受付システムに持たせるべきデータ項目まで落とし込みます。賃貸管理会社の実務担当者・システム担当者と、この領域の案件を受けるベンダーの方に向けた記事です。

個別の契約内容によって責任範囲は変わるので、実際の運用は管理受託契約と顧問弁護士にご確認ください。

不動産管理の入居者対応を自動化するとき、最初に決めるのは「線」です

結論から書きます。AIに任せる範囲と人が出る範囲の境界は、民法607条の2第2号の「急迫の事情」で引けます。

条文はこれだけです。

(賃借人による修繕) 第六百七条の二 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。  一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。  二 急迫の事情があるとき。

——民法(明治29年法律第89号)第607条の2(e-Gov法令検索、2026年8月24日閲覧・強調は筆者)

短い条文ですが、24時間受付の設計に必要なことがほとんど入っています。読み解きます。

第2号「急迫の事情があるとき」 は、入居者が通知なしで勝手に直してよい場面です。つまりここに当たる案件で管理会社が反応できないと、入居者が自分で業者を呼び、その費用は民法608条により「直ちに償還を請求」されます。金額のコントロールが効かなくなる。

第1号は、通知したのに「相当の期間内」に動かなかったときです。ここも同じ結末になりますが、起点が違います。起点は「通知」です。

この2つを分けると、システムの役割が決まります。

  • 第2号に当たり得るもの … 反応の速さが金額に直結する。AIに判断させず、即座に人へ
  • 第1号に関わるもの … 起点は通知時点。「いつ通知を受けたか」を残せるかが全て

24時間受付の最重要機能は、答えることではありません

ここが、この記事でいちばん言いたいところです。

賃貸管理のAI受付を紹介する記事はたくさんありますが、どれも「一次対応の自動化」「問い合わせ削減」を効果として挙げています。 それはそうなのですが、法的にいちばん効くのは別のところです。

入居者側にも通知義務があります。

(賃借人の通知義務) 第六百十五条 賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。

——民法第615条(同上・強調は筆者)

つまり賃貸借の修繕は「通知」を軸に回っています。 入居者は遅滞なく通知する義務を負い、通知を受けた側は相当の期間内に修繕する。この起点が記録されていないと、後で「言った・聞いていない」になったときに何も出せません。

そして24時間受付を入れる本当の意味はここです。電話は記録が残りません。 社長の携帯で受けた夜中の水漏れは、翌朝には「たしか2時頃だったかな」になります。受付システムを通せば、分単位の受付日時が自動的に残る。

私はこれを、AI受付の主機能は応答ではなく受信記録だと考えて設計します。極端に言えば、AIの回答文が多少そっけなくても、受付日時と申告内容の原文が正確に残っていればシステムとしては成立します。逆はありません。

何をAIに言わせて、何を言わせないか

修繕義務を負っているのは賃貸人(オーナー)です。

(賃貸人による修繕等) 第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

——民法第606条(同上・強調は筆者)

管理会社は、管理受託契約の範囲でその義務の履行を代行している立場です。だからAIに「これは大家さん負担です」「それは入居者さんの負担ですね」と言わせてはいけません。 但し書きの「賃借人の責めに帰すべき事由」の判断そのものだからです。

線を引くとこうなります。

AIに言わせてよい

  • 受け付けた事実と受付番号(「◯時◯分に承りました。受付番号は◯◯です」)
  • 担当者からの折り返し予定(「翌営業日の午前中にご連絡します」)
  • 物件共通の運用案内(ゴミ出しの曜日、駐輪場の場所、更新手続きの流れ)
  • 緊急時に入居者自身が最初にやること(元栓・ブレーカーの位置の案内)

AIに言わせてはいけない

  • 修繕費用の負担がどちらかの判断(606条但し書きの判断そのもの)
  • 修繕するかどうかの可否(賃貸人の義務の範囲の判断)
  • 業者を呼んでよいという許可(費用が発生する意思表示)
  • 他の入居者に関する情報(騒音の申告に対して「上の階の方は…」と答えない)
  • 契約解除・更新拒絶に関わる回答

だめな側に共通するのは、その回答がそのまま管理会社の意思表示として扱われうることです。人が言えば「確認します」で止められるところを、AIは訊かれると答えてしまう。ここはシステムプロンプトで禁止するだけでなく、該当キーワードが出たら回答を生成させずに受付へ倒す実装にしておくのが安全だと思っています。

エスカレーションの判定は、迷わせない

「急迫の事情」に当たるかを、AIに繊細に判定させてはいけません。判定に迷う設計にした時点で、迷った分だけ遅れます。

私が設計するなら、次のどれかに触れたら無条件で人へ回します。精度より漏れの無さを取る、という割り切りです。

区分例扱い
被害が拡大する漏水・水漏れ・天井のしみ・ガスのにおい・焦げたにおい・発煙即時。夜間も人へ
居住が継続できない鍵紛失・入室不能・停電・断水・給湯器が動かない(冬季)即時。夜間も人へ
人身に関わるけが・急病・不審者・共用部の転倒即時。必要なら119/110を案内
第三者に及ぶ階下への漏水・外壁の落下・共用部の破損即時
それ以外設備の不調、騒音、ゴミ出し、駐車場、更新手続き記録して翌営業日

「給湯器が動かない(冬季)」を即時側に置いているのは意図的です。 夏なら翌営業日でも、冬の給湯停止は居住の継続に関わります。季節で扱いが変わる項目は、判定ロジックに月の条件を入れておかないと運用でこぼれます。

もうひとつ。騒音を「それ以外」に置いていますが、これは軽視という意味ではありません。 急迫の事情(=修繕の緊急性)ではないので夜間の即応対象から外している、というだけです。騒音は後述する「苦情」として確実に記録に残す必要があります。

国交省令が「苦情の対応状況を報告しろ」と言っています

ここからがシステム設計の話です。受付システムが出力すべきものは、実は法令で決まっています。

賃貸住宅管理業法は、管理業者にオーナーへの定期報告を義務づけています。

(委託者への定期報告) 第二十条 賃貸住宅管理業者は、管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、国土交通省令で定めるところにより、定期的に、委託者に報告しなければならない。

——賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)第20条(e-Gov法令検索、2026年8月24日閲覧)

その「国土交通省令で定める事項」が問題です。施行規則を引きます。

(委託者への定期報告) 第四十条 賃貸住宅管理業者は、法第二十条の規定により委託者への報告を行うときは、管理受託契約を締結した日から一年を超えない期間ごとに、及び管理受託契約の期間の満了後遅滞なく、当該期間における管理受託契約に係る管理業務の状況について次に掲げる事項(中略)を記載した管理業務報告書を作成し、これを委託者に交付して説明しなければならない。  一 報告の対象となる期間  二 管理業務の実施状況  三 管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況及び対応状況

——賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則(令和2年国土交通省令第83号)第40条第1項(同上・強調は筆者)

第三号です。 入居者からの苦情について、発生状況と対応状況の両方を、年1回以上オーナーへ報告して説明しなければならない。

これは受付システムの設計に直結します。「対応件数」だけ数えているシステムでは、この欄が埋まりません。 発生状況(いつ・どの部屋で・何が)と対応状況(誰が・いつ・どうしたか・終わったのか)が、物件ごとに切り出せる必要があります。

しかも報告先はオーナー単位、集計期間は管理受託契約の締結日から1年ごとです。全社の年度で締めても使えません。契約ごとに起算日が違うので、任意期間で切り出せる形にしておく必要があります。ここは後から足すと苦しくなる部分です。

ちなみに登録義務の基準は施行規則第3条で、「賃貸住宅管理業に係る賃貸住宅の戸数が二百戸」と明記されています。200戸未満なら登録は義務ではありません。ただし登録しなくても、民法上の通知の記録の必要性は1ミリも減りません。 消えるのは行政上の義務であって、賃貸借契約上の責任ではないからです。

なお、業務管理者の職務を定めた施行規則第13条は、その第七号に「賃貸住宅の入居者からの苦情の処理に関する事項」を挙げています。苦情処理は、法令上も管理・監督すべき事務として名指しされている領域です。

条文から受付システムのテーブルを起こす

ここまでを、そのままデータ設計に変換します。これがこの記事でいちばん実用的な部分だと思います。

持つべき項目根拠なぜ必要か
受付日時(分単位)民法607条の2第1号/615条「相当の期間」の起点。日付だけでは夜間の争いに使えない
入居者・物件・部屋番号規則40条1項3号報告はオーナー単位・物件単位で切り出す
申告内容の原文民法615条要約で保存すると通知の内容を後から立証できない
急迫判定の結果と根拠民法607条の2第2号なぜ即時にしなかった/したかを説明できる
引き継ぎ先と引き継ぎ日時規則40条1項3号(対応状況)「受け付けたが誰も動いていない」を検出する
完了日時と対応内容規則40条1項3号(対応状況)報告書の3号欄はここが埋まらないと書けない
費用負担の判断と判断者民法606条但し書きAIではなく人が判断した記録として残す
管理受託契約ID と 契約起算日規則40条1項集計期間が契約ごとに違う。全社年度では切れない

「申告内容の原文」を要約で置き換えないでください。 AIに要約させて保存する設計を見かけますが、615条の通知の内容が争点になったときに、要約は証拠として弱い。原文を残したうえで、要約を別カラムに持つのが正解です。

保存期間についても定めがあります。帳簿は事業年度末で閉鎖し、閉鎖後5年間保存(規則38条3項)。電磁的記録で構いませんが、条件が付いています。

前項各号に掲げる事項が、電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体に記録され、必要に応じ賃貸住宅管理業者の営業所又は事務所において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面に表示されるときは、当該記録をもって法第十八条の規定による帳簿への記載に代えることができる。

——同施行規則第38条第2項(同上・強調は筆者)

「明確に紙面に表示される」——つまり画面で見られるだけでは足りず、印刷可能な形で出せることが条件になっています。SaaSを使う場合、この出力機能があるかは契約前に見ておくところです。データをCSVで吐けても帳簿の体裁で印刷できないなら、要件を満たしているとは言いにくい。

費用の目安と、作るか買うかの分岐

作る場合の規模感を書いておきます。

  • 受付のみ(フォーム+自動応答+通知) … 80〜150万円/1〜2か月
  • 上+急迫判定とエスカレーション(電話連携含む) … 200〜350万円/2〜3か月
  • 上+管理業務報告書の自動生成(契約起算日での期間集計) … 350〜600万円/3〜5か月

※当社試算です。既存の管理システムとの連携方式(API/CSV/連携なし)で大きく動きます。

分岐の考え方はこうです。

  • 既存の賃貸管理システムに苦情の記録機能があり、契約起算日で期間集計して出力できる → 作らない。既製品で足ります
  • 記録はできるが任意期間の切り出しができない・原文が残らない → 受付部分だけ作って、既存システムへ流し込む
  • オーナーへの報告書を毎年手作業で作り直している → ここの自動化が投資回収の中心になります

3つ目が実は大きい。管理戸数が増えるほど、報告書作成は戸数に比例して増える作業です。受付の自動化より、報告の自動化のほうが後から効いてきます。

24時間の一次受付をAIに任せるかどうかを費用面から見たい場合は、社内RAGチャットボットの構築費用の記事に、AIの利用料が1問あたりいくらになるかを計算した表を載せています。この規模の受付なら、AI利用料そのものは月に数千円のオーダーです。判断材料になるのは初期構築費と運用のほうです。

自社の要件でいくらになるかは、無料のAI見積もりで概算を取れます。作りたいものを書いてもらえれば、SIer相場と当社の金額を並べて出します。

最後に、順番の話

正直に書くと、受付の自動化より先に手を付けたほうがいいものがあります。

いま電話で受けている内容を、1か月ぶんだけ手で記録に起こしてみることです。 受付日時・部屋番号・申告内容・急迫かどうか・誰がいつ対応したか。これをやると、自社の案件がどの区分にどれくらい寄っているかが見えます。

私がこの順番を勧めるのは、急迫案件の割合が会社によってまったく違うからです。築古の物件が多ければ設備トラブルが中心で、学生向けなら騒音とゴミ出しが中心になる。前者は夜間の人員体制の話になり、後者は自動応答で大きく減らせます。同じ「入居者対応の自動化」でも、打ち手が逆になる。

1か月の記録があれば、その判断が数字でできます。無ければ、ベンダーの提案する型に業務を合わせることになります。先に決めるべきなのは、どのツールを入れるかではなく、自社の案件がどう分布しているかです。

制度や帳簿の要件からシステムの形を決める考え方は、産廃の電子マニフェスト連携や運送業の点呼記録の記事でも同じやり方で書いています。業種は違っても、法定の記録事項からテーブルを起こすという順番は変わりません。


出典(すべて2026年8月24日閲覧)

条文は引用時点のものです。管理受託契約の内容によって管理会社の責任範囲は変わり、個別の事案が「急迫の事情」に当たるかどうかも事情によって判断が分かれます。実際の運用にあたっては、契約書と顧問弁護士にご確認ください。

よくある質問

200戸未満なら賃貸住宅管理業の登録は要らないのですか?
登録義務の基準は施行規則第3条で「賃貸住宅管理業に係る賃貸住宅の戸数が二百戸」と定められており、これ未満なら登録は義務ではありません。ただし登録しない場合でも、入居者からの通知を受けた事実と時刻を残す必要性(民法607条の2)は変わりません。登録の有無で消えるのは行政上の義務であって、賃貸借契約上の責任ではないためです。
AIチャットボットに修繕の可否を判断させてもいいですか?
修繕義務を負うのは賃貸人(民法606条)で、管理会社は管理受託契約の範囲で動く立場です。可否の判断そのものをAIに出力させると、その回答が管理会社の判断として扱われかねません。設計としては、AIには「受け付けた」「担当へ引き継いだ」までを言わせ、可否・費用負担の判断は人が出す形にするのが安全です。
水漏れや鍵の紛失は、どこで人にエスカレーションすべきですか?
民法607条の2第2号の「急迫の事情」に当たり得るかで切るのが実務的です。放置すると被害が拡大する(漏水・出火・ガス)、居住そのものが継続できない(入室不能・停電・断水)、人身に関わる、のいずれかに触れたら、AIに判断させず即座に人へ回します。判定に迷う設計にしないことが大事で、キーワードで拾ったら無条件でエスカレーション、で構いません。
受付システムに残すべき項目は何ですか?
最低限、受付日時(分単位)・入居者と物件と部屋番号・申告内容の原文・急迫判定の結果・誰にいつ引き継いだか・完了日時と対応内容の6点です。前半は民法607条の2の「通知」を証明するため、後半は国交省令40条1項3号の「苦情の発生状況及び対応状況」を管理業務報告書に書くためのものです。
管理業務報告書はどのくらいの頻度で出す必要がありますか?
施行規則第40条第1項は「管理受託契約を締結した日から一年を超えない期間ごとに、及び管理受託契約の期間の満了後遅滞なく」と定めています。つまり最低でも年1回と契約終了時です。記載事項は報告対象期間・管理業務の実施状況・入居者からの苦情の発生状況及び対応状況の3つで、委託者に交付して説明する必要があります。

自社の場合、いくら?

不動産管理業の業務は例外処理が多く、要件が固まりきる前ほど見積もりがぶれます。作りたいものを入力すると、AIが約3分で概算を出します。無料で、営業からのしつこい連絡はありません。「そもそも作る価値があるか」の段階でも構いません。

AIで概算見積もり(無料) →

先に費用の目安を知りたい方は用途別の費用相場へ。

あわせて読みたい

← ブログ一覧へ戻る